趣味

片岡聡九段、カド番に追い込まれて芽生えた自信でもぎ取った天元位


2014.07.27

第8期天元戦挑戦手合五番勝負第5局(1982年) 写真提供:日本棋院

片岡聡(かたおか・さとる)九段の名前が初めて大舞台に登場したのは1979(昭和54)年の冬だった。

 

まだ挑戦手合制ではなく決勝五番勝負制を採っていた第5期天元戦で、その決勝にまで進出したのである。

 

当時は木谷一門を中心とするベテラン棋士の天下であった。その中で21歳・五段の若手がタイトルを争う五番勝負に登場してきたことは衝撃的なニュースだった。

 

雌雄を決する相手は、前年の覇者でもあった加藤正夫九段である。

 

*  *  *

 

確かに「21歳・五段」がタイトル戦に出るというのは珍しかったけど、4年ほど前に趙治勲さんが18歳でプロ十傑戦に優勝していましたから、僕のときはそれほどの騒ぎというわけではありませんでした。ただまあ、自分がタイトル戦に出場できるとは思ってもいなかったので、本当にびっくりしたことを覚えています。

 

でも結果は3連敗…。自分の力のなさを痛感しました。ある程度は打てたような感じもあったのですが、やはり全体としては、超一流の先生との実力差ははっきりしていましたね。

 

この3年後の夏に新人王戦で優勝(決勝で依田紀基四段に2勝0敗)して、その勢いもあって天元戦で挑戦者になることができました。挑戦手合制へと移行していた天元位は加藤先生が4連覇中で、3年前の雪辱戦という形でもあったのですが、こちらは「負けてもともと」という気楽な立場ではありました。

 

1勝1敗で迎えた第3局、僕は白番で負けたのですが、途中まではすごくうまく打っていたんですよ、理想的に。しかし大逆転負けを喫してカド番となったのですが、負けたときに初めて自信みたいなものが出てきたのです。「勝ってもいいのだな」という表現では変かもしれませんが「勝ってもおかしくはないぞ」という気持ちにはなりましたね。

 

それまでは「自分がタイトルを取っていいのかな」と半信半疑みたいな思いがあったのですが、この第3局を負けたときに「自分にはタイトルを取れる実力があるのだ」という気持ちが芽生えたのでした。カド番に追い込まれたにもかかわらず、不思議なことに…。

 

で、第4局はわりとうまく打てまして2勝2敗に。そして最終局は握り直しての先番半目勝ちでした。この碁が「終盤の長い碁」と言いますか、序盤で少し戦いがあって以降はずっとヨセ合いみたいな碁でして、形勢もずっと微妙でした。半目がどちらに転んでもおかしくない勝負だったのです。

 

それでも不思議と、落ち着いて打てた印象がありますね。欲がなかったというか…。無心で打てたことが、半目を呼び込んだのではないかと思っています。

 

タイトル保持者になったからといって、自分の中での変化は起きなかったですね。周囲の棋士たちも「おめでとう」くらいは言ってくれたけど、何か特別なことをしてくれたわけでもないしね(笑)。まあタイトルを取って変わったことは、対局に必ず記録係がつくようになったことかな。それと上座に着いて対局することが多くなったので、先輩棋士に対してはちょっと恐れ多い気持ちになったことでしょうか。

 

翌年の防衛戦は、挑戦者が淡路修三さん(当時八段)でした。僕は直前にリーグ入りが懸かった碁を二つ落としていて、ちょっと苦しいイメージで五番勝負が始まった記憶があります。

 

事実、内容はよくありませんでした。結果的に3勝1敗で防衛はできたのですが、勝った第1局も第4局も、自慢できる勝ち方ではありませんでした。とはいえ、タイトルは一回だけだとまぐれと言われかねないようなところもあるので「とにかく一回は防衛したい」という気持ちはありました。それをかなえることができたので、ホッとしたことはよく覚えています。

 

■『NHK囲碁講座』2014年7月号より

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