趣味

趙治勲二十五世本因坊が、呉清源九段に許してもらいたいこと


2014.05.27

イラスト:cus³

趙治勲(ちょう・ちくん)二十五世本因坊は、日本棋院名誉客員棋士の呉清源(ご・せいげん)九段の大ファンを公言している。しかし、今は少し敷居が高くなってしまっているという。2人の間に一体何があったのだろうか。

 

*  *  *

 

今回は呉清源先生のことをお話ししようと思います。年配の読者さんなら、絶対に知っている名前でしょう。ひと言で言えば、「碁界の偉人」です。ぼくはね、正直に言うと人間じゃない気がする。遠い遠い他の星からUFOに乗って飛んできたようなね(笑)。それくらい不思議で魅力的で、そしてぼくを導いてくれた先生です。

 

ぼくは呉先生のファンでもあります。我が家のリビングには、大きく引き伸ばした先生とのツーショット写真が飾ってあります。30年くらい前からかなあ。もう家宝と化していますよ。なぜそれだけ呉先生が好きか。それはもう、碁が強いからにほかなりません。「強い」というひと言で表しちゃいけないな。とにかくね、さっきも言ったけど、人間離れしているんですよ、盤上の感覚が。とにかくスマートなんです。

 

呉先生はぼくのことをなぜか気にかけてくれました。どうしてかはまったく分からないんだけどね(笑)。

 

ぼくが交通事故に遭ったときも(1986年、第10期棋聖戦挑戦手合開幕直前)、真っ先に病院に駆けつけてくれて。覚えているなあ。あのね、卵を持ってきてくれたの。しかも生卵を。不思議でしょ? でさ、「これを食べればすべてが治る」って言うんだよ(笑)。もちろん食べました。両足と左手を骨折している身で、何とかね。効果? うーん、忘れちゃった(笑)。でも感激したですよ。碁が強いだけでなく、優しいんだから。

 

もう一つ、これはいまだに後悔している話なんですが…。

 

海外に一緒に出かけたときの話です。先生がいきなり話しかけてきました。

 

「チクン、お前は車の運転できるか」

 

運転はあまり得意ではないのですが、免許は持っていますと答えると…。

 

「うちには駐車場があるから大丈夫だ」

 

これだけでは何がなんだか分からないですよね。まあ、少し考えたら、家に来いっていうことかなって想像はできたんですが。でも、いったい、どんな用事?

 

「お前は布石に難点がある。教えてやる」

 

こういうことでした。当時のぼくはタイトルをいっぱい持っていて、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのころでした。内心、うれしかったのですが忙しいのもあって、結局出かけずじまい。ここ数年勝てなくなったのは、このときさぼったからかなあ(笑)。

 

ぼくの夢は、家宝のあのリビングの写真に呉先生直筆のサインを書いてもらうこと。誰か間に入ってくれないかなあ。やっぱりお願いしにくいんですよ。あのとき、布石を教わりに行かなかったから。呉先生、怒ってるかなあ。ここを読んでいらしたら、許してください、お願いします!

 

■『NHK囲碁講座』2014年5月号より

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