趣味

仏教における「鬼」に見る日本人の宗教観


2014.05.06

イラスト:籔内佐斗司

仏像や仏教と鬼のイメージはちょっと結びつかないように思えますが、四天王(してんのう)像などの足元をよく見ると、踏みつぶされているかわいそうな邪鬼(じゃき)がいます。そして、平安時代ころから行われている「追儺会(ついなえ)」や「鬼やらい」の仏教行事にも鬼が登場します。仏教のなかの鬼のポジションについて、東京藝術大学大学院教授(文化財保存学)の籔内佐斗司(やぶうち・さとし)さんが解説します。

 

*  *  *

 

古代インドの闇の神「夜叉」は、はじめは仏法に敵対しますが、お釈迦さまに調伏(ちょうぶく)されて護法善神として仏国土に控える戦士(神将)になりました。そして彼らの家来である邪鬼は、かつては夜叉神の命令で闇世を飛び回り、さまざまな災厄をもたらしていたのですが、今では四天王に調伏されて、踏みつけられています。

 

お釈迦さまが亡くなられたあと、その遺骨を盗んで逃げた捷疾鬼(しょうしつき)といわれる鬼が、韋駄天(いだてん)に取り押さえられる話があります。この捷疾鬼は、ペストやコレラ、インフルエンザなどのはやり病(やまい)の象徴であったと思われます。

 

さて寺院のなかの邪鬼を見ていきましょう。まず法隆寺金堂の飛鳥時代につくられた四天王は、中国北部の硬い造形を持った仏像様式を示し、その邪鬼は、青銅器の饕餮文(とうてつもん・古代神話の怪獣の顔)のようなユーモラスな顔をして、まるで四天王を守る乗り物のようにも見えます。

 

唐の様式である天平時代につくられた東大寺戒壇堂(かいだんどう)の四天王に踏まれている邪鬼は、たいへん表情豊かで、いうことをきかない猛獣が駄々(だだ)をこねているようです。それが、鎌倉時代の邪鬼になるとたいへん写実的で、苦悶や忿怒を思わせる顔をしながらも、どこか愛嬌(あいきょう)があります。

 

法隆寺五重塔では、初層の屋根と裳階(もこし)の間で、邪鬼(力神)が四隅に一体ずつ、重量挙げのようなスタイルで軒を支えています。かつては悪鬼だった邪鬼が、改心して縁の下の力持ちとして仏法のお役に立とうとしているけなげな姿に見えてきます。

 

興福寺の一対の有名な邪鬼の像・天燈鬼と龍燈鬼は、立ち上がって灯明をささげ、仏法の光で闇を照らしています。この2体の邪鬼は、私たち日本人が考える「オニ」の姿にもっとも近いものがあります。

 

中国の「鬼(キ)」と日本の「オニ」は違います。中国の鬼は悪霊や亡霊のことで、姿は見えないものです。しかし、日本では早くからさまざまに擬人化され、絵画などに登場しました。

 

「オニ」は、酒呑童子(しゅてんどうじ)や茨木(いばらき)童子のような人をも食らう恐ろしい物怪(もののけ)である反面、いったん味方になってくれたら、その強さゆえに、災厄を払い福を招く頼もしい存在であるという二面性をもっています。

 

今日でも、「鬼神」「鬼将軍」のような表現が用いられます。これは、「悪源太」「悪兵衞」の名前のように「悪」が「強い」を意味しているのと同じです。また荒くれ者が調伏されて、守護者となる構図は、弁慶(べんけい)と牛若丸(うしわかまる)とも共通しています。

 

京都の祇園祭(ぎおんまつり)は、八坂神社(やさかじんじゃ)のご祭神「牛頭天王(ごずてんのう)」のお祭りですが、牛頭天王の姿や性格は、不動明王とともに日本人が共通して抱く「オニ」のイメージにぴったりです。また牛頭人身(ぎゅうとうじんしん)の容貌魁偉(ようぼうかいい)な神は、ギリシャ神話の怪物・ミノタウロスを連想しますし、『西遊記』や中国の演劇にも登場する「牛魔王(ぎゅうまおう)」にも似ています。

 

大みそかに山から降りてくる神さまを、家々で迎える習慣は古代からあったようです。この神が鬼の姿に転じた行事が、秋田の「なまはげ」など日本各地に今も残っています。人々は鬼を恐れながら囃(はや)し、もてなします。彼らは、日本人の「オニ」観をよく表しています。

 

ひたすら恐れ忌避すべき中国の「鬼」を、愛すべき日本の「オニ」に変化させた私たちの宗教観は、かつての朝廷の反逆者・平将門(たいらのまさかど)を今なお神田明神の祭神として祀る心情と共通する、絶対悪をつくらない日本人の優しい心を感じます。

 

またそのことは、すべての者が救われるとする日本の仏法が背景にあるためだといえるでしょう。

 

■『NHK趣味Do楽 籔内佐斗司流 ほとけの履歴書 仏像のなぞを解きほぐす』より

このエントリーをはてなブックマークに追加

  • テキストビュー300×56

000000162732020_01_136

NHK囲碁シリーズ レイモンドの狙え!戦いの手筋

2020年01月16日発売

定価 1540円 (本体1400円)

000000402872020_01_136

NHK趣味の園芸 12か月栽培ナビ (11)シクラメン ガーデンシクラメン 原種シクラメン

2020年01月21日発売

定価 1320円 (本体1200円)

000069233832020_01_136

NHK大河ドラマ・ガイド 麒麟がくる 前編

2020年01月11日発売

定価 1210円 (本体1100円)