趣味

羽根泰正九段 「何かの勝負を見た時、それを囲碁に置き換えて考える」


2013.03.01

「若いころは、勝てば元気が出るけれど、負ければ自分の弱さを思い知らされて落ち込んでしまう——その連続でした。そういう時には本を読んで気持ちを落ち着かせたり、何かを得ようとしたものです」。こう語るのは、囲碁棋士の羽根泰正九段だ。

 

 

*  *  *

 

特によく読んだのが、古代中国の思想家たちの著作でした。孔子、孟子、孫子、老子、荘子などなど…。今に残されている数々の言葉の中から、囲碁にも応用できそうなものを探すのです。

 

 

最も感銘を受けたのは老子の「道の道とすべきは、常の道にあらず。名の名とすべきは、常の名にあらず」という言葉でした。

 

 

これは「世の中に絶対の答えなどない。その時々で常に答えは流動している」といった意味なのですが、私はこれを囲碁に置き換えて「碁の碁とすべきは、常の碁にあらず。定石の定石とすべきは、常の定石にあらず」と焼き直したのです。

 

 

囲碁もまた、答えの出ない部分が多いゲームですから、この老子の言葉が私には実にぴったりと当てはまりました。この言葉と出会ったのは20歳のころだったと思いますが、以降40年以上にわたって、私の碁を支えてくれる座右の銘となりました。

 

 

また師匠の島村俊廣先生に言われて実践していたのが、何かの勝負を見た時、それを囲碁に置き換えて考えるということでした。

 

 

例えば相撲。その勝負を見た時に「あの力士はこういう心境になっていたから、逆転負けを喫してしまったのではないか」とか。

 

 

そうした勝負を見続け、考え続けていて思ったのが「力量の差など、そんなに大した問題ではない。その時の気の持ちようしだいで、結果はどんなふうにも変わる」ということでした。囲碁なんて、ちょっと気持ちが落ち込んだりすると、大変な差が出ますから。

 

 

その意味で超一流と呼ばれる棋士は、気持ちの揺れ幅が小さい。仮に大きく揺れる時があったとしても、すぐにそれを修正し、立ち直ってくるたくましさと能力があるのです。

 

 

■『NHKテレビテキスト 囲碁講座 12月号』より

 

 

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