趣味

活気あふれる「将棋サロン荻窪」、名物席主の半生


2014.03.13

写真提供:将棋サロン荻窪

「道場は、人がいないとダメ」――。人が人を呼ぶ道場づくりで、活気のあふれる「将棋サロン荻窪」。その中心には、一般客からばかりでなく棋士、女流棋士、奨励会員からも慕われる、席主・新井敏男さんの存在がある。会社経営者から将棋道場の席主へ大胆な転身をとげた新井さんの半生を、観戦記者の小暮克洋氏が描き出す。

 

*  *  *

 

東京都杉並区のJR荻窪駅。北口から徒歩1分のビル2階に「将棋サロン荻窪」はある。経営者として道場を切り盛りする新井敏男さん(63)は、2011年9月まで同じ中央線の吉祥寺駅前で「将棋サロン吉祥寺」を開いていた。12年の歴史を刻んで11月に移転。新天地には30坪の広々とした一室を選んだ。

 

将棋道場は軒並み減少傾向にあり、このサロンも風雪に耐えてきた。一般客のほか多くの棋士や女流棋士、奨励会員たちで活気にあふれた現在の状況は、偶然の産物ではない。カリスマ的な名物席主として知られる新井さんに、自身の将棋人生を語ってもらった。

 

悔いのない生き方

 

新井「私が生まれたのは1950年。おやじはサラリーマンでしたが将棋好きで、休日には家がたまり場になって7〜8人が集まっていました。将棋のルールは自然に覚えましたが、本格的にはまったのは30歳少し前。当時住んでいた吉祥寺の将棋道場に会社の帰りに寄るようになり、面白さに目覚めました」

 

新井さんは20歳から23歳まで単身渡米した経歴を持つ。度胸や胆力、物事を前向きにとらえる人生観は、激しく生きたこの時期に培われた。ロスアンゼルスに永住するつもりでいたが、ひょんなきっかけで再び帰国。

 

新井「青春時代の渡航体験は、誰も助けてくれない中でどう生きるべきか。それでも人生はどれも一局ということを教えてくれました。30歳前半で会社経営者となり、道場通いが増えました。行き詰まったときはあれこれ考えてもしょうがない。没頭するとつらいことを忘れられるのが将棋のいいところですね」

 

49歳のとき、転機が訪れる。通い詰めていた道場は1年半前、王将クラブから将棋サロン吉祥寺と名称を変えて営業が続いていたのだが、経営難から閉店の危機を迎えたのだ。

 

新井「人生50年と思って好き勝手やってきましたからね。将棋の好きな人のために余生を捧げるのも悪くないんじゃないかと。『2人で食っていければいいよな』って女房に相談したら『いいですよ』って。それで道場を引き継ぐことになったんです」

 

新井さんの新たな人生は、旧道場の有形無形のすべてを作り変えるところから始まった。

 

新井流のポリシー

 

新井「憩いの場としてのサロンの名に恥じないように、盤も内装もきれいにしました。入場者カードに住所と連絡先を書いてもらうことにしたのは、雑多な集まりではない和気あいあいとした雰囲気にしたいと思ったからです。私の将棋の原点は、御城将棋ではなく縁台将棋。マナーは厳格ではなく最低限でいい。それでも追い出した人はいます。簡単なんですよ。私より柄の悪い人は出入り禁止。だから、わざとではないけれど、私は柄を悪くしているんです。道場の師範はバランスを考え、上品な谷川治惠女流五段にお願いしました」

 

谷川女流五段による指導対局やスタンプサービス、毎日実施のトーナメントなどが呼び水となり、新装開店前に月間400人だった客数は、1年半後には1300人に増えた。

 

新井「道場は、人がいないとダメ。4〜5人でも来てくれたなら、人が人を呼ぶ。そのつながりを大事にしようと思いました。楽しく将棋を指してもらいたい一心でしたね」

 

■『NHK将棋講座』2014年3月号より

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