趣味

坪内利幸八段、かかりつけ医が結んだ師匠・有吉道夫九段との縁


2014.02.19

有吉道夫九段(左)と坪内利幸八段(右)。撮影:河井邦彦・田村泰男

「火の玉流」と呼ばれた有吉道夫(ありよし・みちお)九段。盤上での火が出るような激しい攻め、闘志あふれる将棋で一世を風靡(ふうび)した。

 

坪内利幸(つぼうち・としゆき)八段は、祖母がかかりつけの医者にもらした言葉によって有吉九段と師弟の縁を結ぶことになる。坪内八段が師匠との出会いに思いを馳せる。

 

*  *  *

 

祖母のひと言が縁になって

 

私の祖母のかかりつけの医者であった、阪神住吉駅南にあった小屋医院(今は息子さんが後を継いでおられます)。その小屋先生が、師匠の後援者の一人であったことから師匠とのご縁ができました。

 

私が中学生のとき、祖母が診療を受けに行った折、「うちの孫が将棋が好きで」と話したところ、「それなら一度連れておいで」ということになり、師匠が来られる金曜日の夜、小屋先生のお宅にうかがうという生活が始まりました。

 

当時、小屋先生は全国紙を全紙取っておられ、将棋欄を切り抜くのがまず私の仕事になり、1週間分の新聞を読みながら切るものだから、2時間ほどかかりました。その後、師匠に一局教わり、帰ると真夜中になっていました。一度警官に呼び止められたことがありました。中学生がそんな遅い時間にうろついていたら、今だったらどうなんだろう。

 

結局、2年間ほどそうした時間を過ごし、将棋のほうも四枚落ちから飛香落ちまで、師匠に指していただきました。

 

奨励会に入会 そして塾生に

 

現在の奨励会は本当にレベルが高い。そして厳しい。しかし当時の将棋界が世間にどう認知されていたかは、次のエピソードで知れます。

 

中学2年の学校の担任に相談に行ったときのこと。「生活できるのか。嫁さんを養えるのか」と言われました。3年のときの独身の担任には、「若いうちにチャレンジするのはいいことじゃないか」と言ってもらい、奨励会受験を決めました。

 

父親は心配だったのでしょう、師匠の元に話を聞きに行きました。その際、師匠は「五、六段までは行くでしょう。ただその先は、本人の努力次第」と話されました。本人の努力次第という話に納得したのか、父親は受験を認めてくれました。

 

私の父親についても少し記します。銀行員をして、堅実な毎日を送っていました。現在93歳、介護施設にお世話になっています。週に2度、家内ともども会いに行くのですが、息子が来たことも分からないときもあります。時々、銀行員時代の記憶が出てくるのか、お金の話が出てきます。そうした父親が息子に、将棋という分からない世界に進むことをよくOKしたと思います。

 

私が奨励会に入会した当時のことも記しておかねばなりません。当時の入会試験は現役奨励会員と3局指し、2勝以上すれば入会を認め、1勝2敗は不合格。ただまれに幹事の目から見て有望ならば、3連敗でも入会を認められることがありました。私は2連勝し、次の一局を勝てば5級で入会という話になりましたが、森安正幸さん(当時3級)に負け、6級での入会になりました。

 

私には同期という者がおりません。奨励会員が少ないぶん、突出した実力がなければ、「どんぐりの背比べ」状態でなかなか昇級できませんでした。それでも17歳で2級になったとき、将棋連盟関西本部の塾生に空きができ、師匠からお声がかかりました。

 

私は高校2年、卒業旅行にも行ったことだし、学校生活には何の未練もなく、当時の関西本部のある北畠へと生活の場を移しました。先輩の青木清さんともども、留守番役の角田三男先生(故人・八段)夫妻の元、4年間を過ごしました。当時の思い出はたくさんありますが、何とか一人前の四段に早くなりたいという気持ちを育ててくれたことが一番でした。

 

■『NHK将棋講座』2014年2月号より

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