趣味

年賀の句に見る古きよき正月の風景


2014.01.08

「草樹」会員代表を務める俳人の宇多喜代子(うだ・きよこ)さんが、いままで生きてきた歳月のなかで、もっとも変わったと思うものは、「新年の到来」にまつわるもろもろだという。

 

「家電や通信機器などをはじめとする便利で早くて機能的なモノや道具が身辺に出現して暮らしの様式が大変化したことも仰天の連続でしたが、大変化は、長く日本人の精神の軸となってきた祭の柱であった『正月』の変化です。正月を迎えるときの『あたらしい時間の到来』『なにもかにもが改まる心構え』に対する気分とその気分をかたちにした行事の変化です」と語る宇多さん。

 

往年の俳人たちが詠んできた「年賀」の句を通して、かつての正月の風景を宇多さんが解説する。

 

*  *  *

 

年新た嶺々山々に神おはす

飯田蛇笏(いいだ・だこつ)

 

いつも眺めている山への新年の挨拶(あいさつ)の句です。大晦日(おおみそか)までざわざわしていた空気が元旦を迎えたところでシーンと鎮(しず)まるのですから、まことに不思議です。この粛々(しゅくしゅく)とした気配を「淑気(しゅくき)」といいますが、このなかで交わされる挨拶が「年賀」です。

 

親しいもの同士であっても、新年になりました、おめでとうございます、本年もよろしくご厚誼(こうぎ)をおねがいいたします、という挨拶をすませます。その後に、年酒(ねんしゅ)や節会(せちえ)料理を振る舞ったりもしますが、玄関先で挨拶を済ませる「門礼(かどれい)」で辞すのが普通です。

 

年始にも老(おい)の一徹(いってつ)見られけり

高浜虚子(たかはま・きょし)

 

節季(せっき)おりおりの挨拶も最後はむにゃむにゃとなりがちですが、この高齢者は、丁寧に年始の言葉を述べているのです。それがなんとなくおかしい句です。このように知人や親戚などに年賀の挨拶にまわるひとを「礼者(れいじゃ)」といいます。

 

ややありて女のこゑや門礼者

岸田稚魚(きしだちぎょ)

 

かつては、三が日に女性が年賀に出向くというようなことは少なく、出かけたとしても「ややありて」くらいの距離で後ろに控えていたのです。そんな時代背景もあって、女性の年賀客を「女礼者」と呼びます。

 

女礼者らしく古風につゝましく

高浜虚子

 

女性の地位向上を志向する向きには、このようなばかばかしい季語が歳時記にあることなど不愉快でしょうが、歴史の一端として残しておいていただきたく思います。

 

新年にかぎらず、めでたいときに述べる挨拶を御慶(ぎょけい)といいますが、礼者が述べる挨拶もその一つで、「御慶」で新年季語になっております。改年の御慶すなわち年賀で、よく知られた句に〈長松(ちょうまつ)が親の名で来る御慶かな〉があります。稚(わか)い子が主のところへ来て、親の口移しの口上(こうじょう)をのべたのでしょう。健気な子の様子がうかがえるほほえましい句です。歌舞伎(かぶき)の子役が思い出されるようなところが読者の関心にとどまるようで、新年になると句会などで話題になります。

 

■『NHK俳句』2014年1月号より

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