趣味

香川愛生女流王将の将棋を象徴する「逆転術」とは


2013.12.12

イラスト:佐々木一澄

香川愛生(かがわ・まなお)女流王将の将棋を象徴するもの、それは「逆転術」だという。悪い将棋を運ではなく力で逆転できる勝負術を身につけるに至った道程について、香川女流王将が綴る。

 

*  *  *

 

小学3年生で将棋を覚えてから中学生ごろまでは、短編詰将棋や次の一手が主な勉強方法でした。おかげで棋風はちゃきちゃきの攻め将棋。序盤はてんでダメでしたが、反面終盤戦は得意でした。詰将棋や次の一手は答えのある問題をクリアしていくという体なので、実戦でも相手のミス(問題)をとがめる手(答え)を見つけることが得意だったのでしょう。——将棋の魅力であり怖さでもありますが、大優勢の将棋もたった一手で形勢がひっくり返ることがよくあります。以前の私は、予期せぬ敵のミスによる棚からぼたもち的な逆転勝ちがほとんどでした。

 

しかし、対戦する相手が強くなってくると、なかなかミスもしてくれません。女流トップともなると、形勢が離れたまま押し切られることもしばしば。それまでの運だけでは通用しない現実に気づくと、悪くなった将棋をまくるための特別な“力”が必要だと考えるようになりました。悪い将棋を“運”ではなく“力”で勝つには何が大切なのでしょうか。

 

逆転のためにはさまざまなテクニックがありますが、一番基本的な逆転への姿勢は、相手が指したい手(好手)を知り、その手を指させないことです。好手を指させない姿勢は局面の優劣を問わず大切で、優勢をキープするにも劣勢の差を広げないためにもこの考え方は欠かせません。それには、“相手が”というところもポイントになります。

 

最近教わったことに「形勢が悪い局面にいい手はない」があります。それまではどんなに悪い局面でも最善手があるものと思っていましたが、劣勢のときはどんな手を指してもその先には悪い局面しかありません(だからこそ劣勢なのです)。悪い側は、その景色を変えるための手、すなわち“勝負手”を指すことが求められます。

 

最善手がその局面にただ一つ潜んでおり、対局者が見つけ出すものならば、勝負手は不利な側が“つくる”ものなのです。一局の将棋で、盤をはさむ対局者の棋風やその日の気分、残り時間など、さまざまな要素が絡み合う中で、本来はない勝ち筋を呼び込む一着。その勝負手をひねり出す力、勝負手の次の悪手を誘う力こそが、逆転に結びつくのではないかなと今は考えています。

 

そうした逆転術への気づきから、私の終盤も少し変わったように思います。「ああ、あの手さえ指さなければ…」。悲壮感漂う逆転劇は、まさに盤上のドラマ。勝負手が引き起こした、劇的で何度でも見たくなるような将棋を指せるように、自分の勝負術を磨いていきたいと思います。

 

■『NHK将棋講座』2013年12月号より

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