趣味

一週間将棋を打ち続け、一週間寝続けた「くろがね」坂口允彦九段


2013.03.04

「将棋でも何でも一週間ぶっ通しでやる先生でした。全然寝ないんです。強靱(きょうじん)な体力を持っていました」——。

 

棋士の佐伯昌優(さえき・よしまさ)九段は、師匠・坂口允彦(さかぐち・のぶひこ)九段について、こう語り始めた。「くろがね」と呼ばれた坂口九段は、何事も徹底的にやらなければ気が済まなかったという。明治の気風を色濃くもった棋士を、愛弟子の佐伯九段が振り返る。

 

*  *  *

 

「元日にお宅へ挨拶に行くと『盤持ってこい』と言われ、将棋の勉強が始まるんです。当時はNHK杯もテレビではなくラジオ放送で、聞きながら並べて研究する。それが終わると最近指した将棋の検討をしたり、延々と勉強を続ける。こちらも頑張ってついていくのですが、2、3日たつと体が持たなくなり、眠たくて目を開けていられない。

 

『先生、もう限界です』と言うと、『じゃあお前は寝なさい』と返事が返ってくる。しばらく寝てから起きると、師匠はまだ盤に向かっていて『起きたか、この将棋は…』と始まる。これが一週間続きました」

 

「くろがねの坂口」の異名は知っていたが、それほどまでとは驚いた。その徹底ぶりは、麻雀でも酒でも変わらなかったという。

 

「お酒も同じで、夕方から飲み屋に行き、夜中の2時3時になって店主に『もう閉店です』と言われても『じゃあお前が帰れ』と言って店の人を帰してしまう。そして飲み続け、翌日の夕方に店の人が出勤してくると、「ちょうど腹が減った。何か作ってよ」と言い、さらに飲み続ける」

 

その常人離れした体力は、時に周りの人も巻き込んだ。

 

「将棋ファンが『先生、将棋教えてください』などと頼むと、もう大変です。夜中まで延々と指し、お客さんに『もう勘弁』と言われるくらいだった。気楽に『教えて』なんていうと後が大変なのだけど、まさか弟子の私が『やめておいたら』などと口を出すわけにもいかず、黙っていました」

 

しかし、どんなに体力があっても寝ないわけにはいかないだろう。まったく寝ない先生だったのかと聞くと「そうじゃない。寝るときは一週間寝続けるんです。食事も寝室で取る。人間だから手洗いだけはしょうがないので行くが、それ以外はずっと寝ていた」。

 

明治生まれの坂口九段はとにかく意志が強く、決めたことは曲げなかったそうだ。

 

「ある正月に訪ねると、突然『酒はやめた』と言われた。『まあ先生、正月くらいはいいじゃないですか』と私は言うんですが、『じゃあお前は飲め』と言われ、頑として受け付けない。結局、その時は4年間まったく飲まなかった。マイペースな人でした。本人はそれでいいが、周りは振り回される。奥様は大変だったと思いますよ」

 

■『NHK 将棋講座』2013年2月号より

 

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