趣味

日本女流碁界の第一人者、謝依旻六段の修業時代


2013.11.26

謝依旻六段 撮影:藤田浩司

謝依旻(しぇい・いみん)、24歳。女流本因坊、女流名人、女流棋聖の三冠を制し、現在の日本女流碁界における完全なる第一人者である。通算獲得タイトル数もダントツの16で(二位は杉内寿子、青木喜久代、小林泉美の10)、今後もさらにこの差を広げていくことは間違いない。

 

院生時代から「大器」の呼び声高く、入段後は周囲が期待した以上のスピードで女流碁界の頂点にまで駆け上った。その足跡はまさに「ノンストップ」と形容できるもので、第三者から見ればこれ以上なく順調な棋士人生を送ってきたようにしか思えない。

 

しかし、それはあくまで外野の目というもので、謝本人いわく「どうすれば勝てるのかが分からなくなった時期があった」そうだ。

 

そのスランプ期の話を中心として、囲碁との出会いから現在までを振り返ってもらった。

 

*  *  *

碁との出会いと父のスパルタ

 

私が碁を覚えたのは5歳のときで、初めは兄がやっていたのです。その兄が通っていた囲碁教室に私がついていって一緒に教えてもらったのが、碁との出会いでした。

 

父と母は、碁をまったく知りません。しかし父には「子供をプロ棋士にする」という夢があったようで、兄と私への囲碁教育をとても厳しく行いました。そのあまりの厳しさに耐えられず、兄が碁をやめてしまったほどです。

 

一方で私は上達が割と早くて、小学校に入るころにはアマチュアの初段くらいになっていました。それで父の期待がどんどんどんどん大きくなって、その期待がやがて厳しさに変わっていったのです。

 

父は碁を知りませんから、どうしても結果重視になってしまう…。我が家は台湾の中でも田舎の方で、台北に行くにも台中に行くにも父が運転する車で1時間以上かかるんです。ですから私が碁で負けると、帰りの車の中ではずっと父の怒りが私に向けられるわけです。これは本当につらかったですね。

 

ですから対局のときはいつも「お父さんに怒られるのは嫌だから絶対に勝つ!」という気持ちで碁盤に向かっていました。こうした強い思いが、もしかしたら現在の「形勢が悪くても簡単には諦めない」気持ちにつながっているのかもしれません。そう考えると、父に怒られたこともマイナスばかりではなかったということでしょうか。

 

来日、そして入段

 

実は私、小学校に入る前のころ、母に対して「将来は女流本因坊になりたい」と言ったらしいのです。

 

このころすでに漢字を読めたそうなので、家にあった囲碁雑誌を見てそう言ったとのことですが、当時の台湾碁界はプロ制度がまだきちんと整っていなかったので、女流本因坊と言えばそれは、日本のタイトルを指します。

 

今から思うと、ちょっと不思議な感じがしますが、恐らく子供心に、日本という国に対する憧れがあったのでしょう。

 

ですからその後、台湾の子供囲碁大会で優勝するなどしたことで「日本に行ってプロ棋士を目指さないか」という話が出たときも、私の中ではすごくスムーズに受け入れることができました。すでに林海峰先生に始まって王立誠先生や王銘琬先生、張栩先生といった先輩方が築いてくださった道があったというのも大きかったと思います。

 

そして12歳のとき(2002年)に来日し、日本棋院の院生となったのですが、実際に来てみると、やはり不安はありました。

 

日本囲碁界に関する情報は、台湾でも翻訳出版されていた『ヒカルの碁』で仕入れていたつもりだったのですが、やっぱり言葉が通じないというのは大きなストレスでした。

 

もう一つ「台湾で応援してくれている人たちのためにも結果を出さなくてはいけない」というプレッシャーもありましたし、院生時代は苦しんだことも多かったです。

 

■『NHK囲碁講座』2013年11月号より

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