趣味

飯塚祐紀七段を笑顔でほめまくってくれた師匠の思い出


2013.11.08

松下力九段(左)と飯塚祐紀七段(右) 写真:日本将棋連盟・河井邦彦

松下力(まつした・つとむ)九段と飯塚祐紀(いいづか・ひろき)七段は将棋教室の先生と生徒という関係から、師弟の縁を結ぶ。50歳以上も年の離れた祖父と孫のような師弟だった。教え上手だった松下九段にならって飯塚七段も子ども教室を始め、指導に精を出すことになる。小学生だった自分に多大な影響を与えた松下九段の人柄や指導法を、飯塚七段が活写する。

 

*  *  *

 

将棋連盟の土曜教室が縁

 

私が生まれ育った東京都北区は将棋が身近にある環境でした。ベーゴマやメンコを持って駄菓子屋の前に集まったのは、今でも懐かしい思い出です。男の子の遊びの一つとして覚え、夏祭りの縁台将棋から入りました。そうして将棋になじんだ最後の世代かもしれません。

 

父にも対戦をせがむのですが、父も超初心者、適当に駒を動かすだけなので、なんだかもの足りません。あまりにしつこいので手を焼いたのでしょう。しばらくして、月刊『将棋マガジン』誌を購入してきました。本を与えておけば、少しはおとなしくなると踏んだようです。将棋マガジンは残念ながら後年休刊になりますが、入門講座が充実していて写真も多く、基本的な戦法の紹介などが大変勉強になりました。

 

読み進めるうちに世の中には将棋連盟という団体があり、さらには教室も開かれていると案内があります。毎週土曜日に開講なので「土曜教室」。おぼえやすい名称です。将棋熱に浮かれていた私は、通って教えを受けたいと思うようになりました。初めて土曜教室に足を運んだ日のことは今でもよく覚えています。当時私は小学4年生に進級したばかり。母に連れられて見学に行きました。

 

この教室に講師として指導に当たっていたのが師の松下力九段です。私にとっては初めて見るプロ棋士ですから興味津々でした。物腰柔らかで教え上手。私の祖父は早々に亡くなっていますが、存命ならば同じくらいの年代です。毎週土曜は将棋教室に通うのが楽しみになりました。小学校から帰宅すると急いで昼食を済ませ、電車に飛び乗ります。目的地はおなじみの千駄ヶ谷。都内の路線図は全くわからないのですが、とにかく将棋会館への道筋だけは覚えました。

 

講師は4人の棋士でそのうち2人の指導対局を受けられます。受付でプラスチック製の赤と白の札を受け取り、自分が受講したい棋士に札を出します。かなりお客本位の運営です。小堀清一九段、工藤浩平七段、山下カズ子元女流名人が常任でいらして、今から思えば大変恵まれた環境でした。工藤先生は東京秋川市でも道場を開いています。奨励会入会後の話になりますが、工藤道場を研究会の場所として使用させていただきました。

 

奨励会の先輩が主宰する研究会で、先生のお人柄もあり、和やかに長年続きました。森内さん、郷田さん、行方さん、岡崎さん、などが常連メンバーで、みんな工藤先生には大変お世話になっています。

 

笑顔でほめまくる師匠の指導法

 

将棋については何もわからない私ですが、将棋マガジンで覚えた必殺戦法の「棒銀」が味方です。

 

「君は棒銀を知っているから7級だね」

 

土曜教室で、いきなり立派な級を認定されて喜びましたが、実はだれでも取れる最初の級だったようです。

 

となりの席で振り飛車ばかり指している、やんちゃで元気のあり余った子がいました。私も一緒になって騒いでいたので、人のことは言えたものではありません。この子が後の名人の森内さんです。現名人が出身者なのですから、将棋連盟の教室はこの点をもっとアピールしても良いのではないかなと思います。

 

とにかく笑顔でほめまくる。故・原田泰夫先生は人をほめる名人でしたが、この点は松下も互角だったと思います。しかもときどき平手で勝たせてくれます。相手はプロ九段ですから、もちろん実力でかなうはずがありません。たとえば、歩を打とうか香を打とうか、迷いに迷って駒台の歩に手が伸びると、「あぁ、その香でまいったな」などと手助けしてくれます。

 

自分で指導将棋を指す立場になってからわかりましたが、初心者が好手を指せるよう、勝てるように局面を誘導するのは簡単なように見えて実は骨が折れます。松下も高齢でしたから、ふだんどおりに勝利を目指し、一直線に寄せ切るほうが体力的にも楽だったはずです。このような指導の様子でしたから、とても人気がありました。

 

■『NHK将棋講座』2013年11月号より

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