趣味

不易に立って流行を楽しむ


2013.10.28

芭蕉稲荷神社のすぐそば、隅田川と小名木川(おなぎがわ)の合流する所にある芭蕉庵史跡展望庭園

人は生まれて最初に父母と出会い、次々と出会いを繰りかえし、やがて老いて死んでいく。つまり、出会いの後にすべての人々との別れがある。

 

この悲しみをどう乗り越えて生きればいいのか。これを問い続けたのが『おくのほそ道』の芭蕉だという。俳人の長谷川櫂(はせがわ・かい)氏に話を聞いた。

 

*  *  *

 

人間の世界にはもちろん喜びや楽しみもたくさんありますが、それ以上の悲しみや苦しみが控えています。その最たるものが親しい人々との別れです。その別れを生みだすのがじつは出会いです。

 

昔からいうとおり会うは別れのはじめ。人は生まれて父母、兄弟姉妹、夫や妻や友人たちと出会い、子どもが生まれれば子どもと出会います。しかしやがて老い、病み、最後は死んで愛するすべての人々と別れなければなりません。昭和戦争(日中戦争と太平洋戦争)でも東日本大震災でも数かぎりない別れがありましたが、戦争や災害でなくても出会いと別れは日常的に繰り返されています。

 

こうした別れの悲しみや苦しみに満ちたこの世界を人はどのように生きていけばいいのか。これが『おくのほそ道』の旅をしながら芭蕉が問いつづけていたことです。その自問の果てに芭蕉がたどり着いた回答が「かるみ」でした。

 

では「かるみ」とは何なのか。

 

「かるみ」とは一言でいえば悲惨な世界を軽々と生きてゆくということです。芭蕉は不易流行という考え方にたどり着きました。不易流行とは宇宙はたえず変化(流行)しながら、じつは不変(不易)であるという宇宙観でした。それは同時に自然観でもあり人生観でもあります。時の流れとともに花や鳥も移ろい、人も生まれて死んでゆく。その花や鳥や人もまた不易なるものが時とともに流行する姿なのです。

 

「かるみ」とはこの不易流行という認識の上に立った人生の生き方、つまり行動論なのです。人の世が出会いと別れを繰り返しながら、そのじつ何ひとつ変わらないのであれば、出会いや別れに一喜一憂することなく、不易に立って流行を楽しみながら軽々と生きていきたいという芭蕉の願いなのです。

 

■『NHK 100分de名著』2013年10月号より

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