健康

始まった希少がん対策:後編 – 「希少がんセンター」の設立と今後の治療


2014.12.24

イラスト:渡部淳士

発生率が低い「希少がん」は、ほかのがんに比べて不十分な医療状況にある。しかし、平成26年6月、国立がん研究センターの中に「希少がんセンター」が開設され、その対策が本格化しつつある。希少がんの治療や研究、そして今後の展望について、国立がん研究センター 希少がんセンター長の川井章(かわい・あきら)さんに話を聞いた。

始まった希少がん対策:前編 – 希少がんとは何か」とあわせてご覧ください

*  *  *

治療や研究の拠点「希少がんセンター」が開設

■主要ながんに次いで注目され始めた
平成18年にがん対策基本法が成立し、翌19年から5年ごとに「がん対策推進基本計画」がつくられ、国の施策としてがん対策が進められている。

まず行われたのは、全国どこでも標準的ながん治療が受けられるようにする「がん治療の均てん化(平等に利益、恩恵を受けられるようになること)」だった。各地にがん診療拠点病院が整備され、患者数の多いがんを中心に対策が進んだ。

これにより、がん全体の死亡率は10%以上低下している。一方で、希少がんについては、主要5大がん(胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、肝臓がん)に比べて、改善が進んでいないという状況があった。

そこで平成24年から始まった第2期がん対策推進基本計画には、初めて希少がん対策が盛り込まれ、平成26年の6月、国立がん研究センターの中に、希少がんの治療や研究の発展を目指して「希少がんセンター」が誕生した。

■対策の中心は医療の集約化
希少がん対策の中心となるのは、医療の集約化だ。現在、日本にはがん診療連携拠点病院が407施設ある。このうち、がんセンターと大学病院だけでも110施設になる。

これに対し、例えば骨肉腫は年間約200人が発症する。この患者さんが全員、がん診療連携拠点病院を受診するとしても、「1つの病院に、2年に1人患者さんが来るかどうか」という状況であり、専門的な診療を望むのは難しい。

そこで、全国に分散している患者さんと、専門的な診療を行える医療スタッフを、そのがんを専門とするいくつかの医療機関に集め、患者さんが専門的な治療を受けられるようにしようという取り組みが始まったのだ。

希少がんに対する医療の集約化は、フランス、イタリア、イギリスなど、ヨーロッパのいくつかの国では、すでに始まっている。方法は国によってさまざまだが、専門的な医療を提供できる医療機関に患者さんが集まるような仕組みになっている。

■情報収集がしやすくなる
希少がんを専門的に診療する医療機関の情報が社会的に明確になると、問い合わせ窓口がはっきりし、患者さんは、自身の病気や診療についての情報を得やすくなる。

また、限られた施設に患者さんが集まるため、同じ希少がんを抱える患者さんどうしのつながりが生まれやすくなる。それにより、不安や悩みを分かち合うことができたり、患者会などの組織ができることが期待されている。

現在は、希少がんセンターの「希少がんホットライン(※)」で、電話相談サービスが行われている。そして電話相談をした患者さんの約7割が、実際に受診したり、セカンドオピニオンを聞きに来たりしている。

■チーム医療が可能になる
現在、がんの医療現場では、医師だけでなく、看護師、薬剤師、検査技師、リハビリテーションの専門家、医療ソーシャルワーカーなど、多くの分野の専門的な職種が連携する「チーム医療」が行われている。

患者さんが年に数人という希少がんでは、そのがんの治療に習熟したチームをもつことが困難だったが、集約化することで、そうした体制づくりを目指すことも可能になった。

がんの新薬が次々と登場しているが、希少がんの新薬開発はなかなか進んでいない。新薬の開発では、有効性と安全性を確認するため臨床試験を行うが、希少がんは患者数が少ないため、必要な人数が集められないという問題があるためだ。

この点に関しても、いくつかの施設に患者さんが集約されれば、効率よく臨床試験を進められるようになる。

また、新薬開発が進みにくい背景には、患者数が少ないために、治療薬の市場が大きくないという事情もある。しかし、集約化によって、希少がんの研究が活発化することで、新薬開発も進むことが期待されている。

■不便を超える患者さんのメリット
医療の集約化には、欠点もある。全国で数か所の医療機関に集約するため、患者さんによっては、遠隔地に行かなければならない可能性もある。

ただ、がんは、脳卒中や心筋梗塞などの病気に比べると治療の緊急性は低く、また集約化した施設でずっと治療が続くわけではない。

集中的に治療が必要な時期には集約化施設で治療を受け、その後は地元の医療機関で治療を継続する、ということも可能だ。

集約化により、これまでは実現できなかった「すべての患者さんが、経験豊かな医療スタッフによる、確実な最新の治療を受けられる」ことが期待できる。

目指すのは、専門病院のネットワークづくり

■経験のある医師を育てる
希少がんの集約化は、あるがんは全国の5か所程度に、また別のがんについては10か所程度に集約する、という具合に、がんの種類ごとに行う。

どのがんにどれくらいの集約化施設が適切なのかについては、研究がスタートした段階だ。

集約化施設は、一斉に都道府県庁所在地の医療機関に置く、といったことではなく、個々のがんにとって最も専門的で適切な医療を提供できる医療機関を選ぶ必要がある。

そこで、施設決定は医療現場にいるそれぞれのがんの専門家に任せ、希少がんセンターがそれについて提言していく形になる。希少がんセンターのメンバーとなっている医師は、それぞれも臨床医として現場に携わりつつ、国としての希少がんに対する体制・環境づくりを行っていくことになる。

■専門医療機関へのアクセスを向上する
希少がんの医療機関の集約化を進める一方で、患者さんに対しては、どこでそれぞれのがんの専門的な医療を受けられるのか、という情報を提供する。

集約化に際しては、患者さんが自ら医療機関を自由に選択できる権利を保障することが重要なので、希少がんセンターとしては、患者さんが必要な情報すべてにアクセスできるような環境を整えることを目指している。

集約化が実際に進むまでにはかなり長い時間がかかることが予想されるが、いくつかの成功事例を積み重ねることで、将来的な実現が目指される。

■『NHKきょうの健康』2014年11月号より

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