教養

古事記はこんなにおもしろい


2013.10.02

立正大学文学部教授の三浦佑之(みうら・すけゆき)氏が著した『口語訳 古事記』は、多くの読者に受け入れられた。しかし、三浦氏自身、その理由は「日本回帰」ではなく、「読み物としてのおもしろさ」にあったのではないかと考えているようだ。

 

*  *  *

 

いまから十年ほど前の2002年、わたしは『口語訳 古事記』という本を出版しました。分厚く、重く、値段もけっして安くないのに、驚くほど多くの方に読んでいただきました。古老が語る古事記という「語りごと」のスタイルにした気軽さがよかったのかもしれません。それから“古事記ブーム”が起こり、人気はいまなお続いています。昨2012年は「古事記編纂千三百年」とされ(わたしはそうは考えていませんが)、本年は伊勢神宮と出雲大社がともに式年遷宮(しきねんせんぐう)の年とあって、お参りの人出もたいへんな数になっています。

 

十年ほど前に本が売れた時、読者は中高年のビジネスマンが多数を占めていました。当時の日本には、グローバル化に向かって走りつづけてきたことへの疑問が出始めていましたから、逆に日本的なアイデンティティに回帰しようとする気持ちのあらわれで古事記が読まれているのだろうかと思いました。しかし、どうやらそれだけではなかったようです。いちばんの理由は「なんとなく敬遠していたけれど、読んでみたら古事記って意外とおもしろいじゃないか」というシンプルなものでした。そうなのです。古事記はそもそも物語としてとてもおもしろいのです。

 

これを裏返していえば、古事記は長く「おもしろい物語」とはみなされていなかったわけで、それはやはり、皇国史観的なフィルターを通してとらえられていたせいでしょう。しかし、月日が経って、世代も交代し、色眼鏡も薄くなりました。

 

古事記で語られているのは、正史として編纂された日本書紀とは異なる物語、つまりヤマトに生まれた王権によって日本列島が統一される以前の、正史からこぼれた生き生きとした豊かな物語です。古事記はむしろ、中央に背いた者や、争いに敗れて消えていった者たちの無念や悲劇のほうに重点が置かれているように読めます。

 

古代日本の様子を千三百年以上の年月をかけて伝えてきた古事記はまた、わたしたち日本人の起源(ルーツ)が思った以上に複雑で、混沌としていて、それゆえに豊かなものであることも教えてくれます。われわれが来た道がまっすぐな一本道ではないこともよくわかります。

 

より多くの方々に古事記のおもしろさを味わっていただけたら幸いです。

 

■『NHK 100分de名著』2013年9月号より

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