教養

古事記が成立したのはいつ?


2013.09.29

古事記は現存最古の歴史書である。しかし、成立した時期とは、いつ頃なのだろうか。立正大学文学部教授の三浦佑之(みうら・すけゆき)氏が解説する。

 

*  *  *

 

古事記の本文は、和銅五年(712)より古く、七世紀後半にはできていたのではないかと考えています。現存最古の歴史書であることは間違いありません。

 

そう考える理由の一つは、古事記は「書き言葉」というより原初的な「語り」の要素を強く持っていることです。古事記も日本書紀も当時の公文書のスタンダードだった漢文で書かれていますが、日本書紀が完全な書き言葉(純粋な漢文)で記されているのに対して、古事記の漢文は倭文化しており、また、しばしば、音声による倭語が音仮名(いわゆる万葉仮名)のかたちで漢字を用いて表記されています。

 

たとえば、アマテラス[天照]とスサノヲ[須佐之男]の姉弟神が互いの持ちものを口に含んで噛み砕き、子を生むシーンでは、「奴那登母々由良迩(ヌナトモモユラニ)」(玉の音も軽やかに、ユラユラと)とか、「佐賀美迩迦美而(サガミニカミテ)」(バリバリと噛みに噛んで)といった具合に、語りの音が漢文に翻訳されずそのままリズミカルに何度も繰り返されています。

 

また、古事記には、ヤチホコ(オホクニヌシ)の妻求めの歌のように、歌謡によるやりとりによってストーリーが展開されるところもあります。

 

古事記には天皇を称賛するより、天皇に殺されたり敗れたりした者たちに共感しているところがあるのですが、そういった正史にはない部分が残っているのは、文字によって統御される以前の、「語り」によって伝えられてきたことによる影響が大きいと思われます。

 

使われている仮名遣いからも、古事記の成立時期の古さを証し立てることができます。

 

この国の古い日本語には「上代(じょうだい)特殊仮名遣い」と呼ばれる用法があり、現代の母音は「あいうえお」の五つですが、八世紀(奈良時代)以前には八つありました。「あいうえお」の「い」「え」「お」の列には発音が二種類ずつある音節があって、「きひみけへめこそとのよろ」(濁音も含む)の十二音については当てる漢字を使い分けていました。たとえば、同じ「ひ」でも二つの違う発音があり、当てる音仮名(万葉仮名)を区別することで、発音の違う「日」と「火」を区別するといった具合です。ここまでは古事記も日本書紀も万葉集も共通しています。

 

ところが、調査によって、古事記ではさらに「も」に関しても使い分けがなされていることがわかっています。

 

母音は時が下るほど単純化されて数が少なくなりますから、「も」の音節を二種類の発音によって区別している古事記のほうが、日本書紀など八世紀の文献よりも数十年ほど古いと推測できるのです。

 

■『NHK 100分de名著』2013年9月号より

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