教養

古事記の真の理解が妨げられてきた理由


2013.09.18

「古事記はこんなにおもしろい」と言うのは、立正大学文学部教授の三浦佑之(みうら・すけゆき)氏。大学時代に古事記と出会ったという三浦氏は、古事記の真の理解が妨げられてきたのではないか、と考えている。

 

*  *  *

 

古事記は八世紀初めに編纂されたとされる現存最古の歴史書です。神話の要素が強いのですが、いわゆるおとぎ話ではありません。「古事記」という書名を訓で読むと「ふることぶみ」となりますが、「古の出来事を記した書物」という意味のとおり、この国の来し方を知るための手がかりの詰まった貴重な史料です。もちろん、おもしろい話もいっぱい詰まっているので、文学と呼ぶこともできます。

 

わたしが古事記と初めて出会ったのは大学二年生の時でした。万葉集の研究などで知られる中西進先生の演習で、出雲神話のヤチホコ[八千矛](オホクニヌシ[大国主])の妻求めの歌を読んで驚きました。その頃のわたしは近代文学に進みたいと思っていたのですが、古事記に触れたら、その言葉のなんと魅力的なこと。目からうろこが落ちました。すっかりとりこになって、卒業論文もヤマトタケル[倭建]について書き、そのまま古事記の研究者になってしまいました。それからはや四十五年になります。

 

古事記研究を続けてきて、二つの理由によって古事記は真の理解を妨げられてきたのではないか、とわたしは考えるようになりました。

 

一つは、近代に入ってからですが、古事記と日本書紀の両書を指し示す便利な用語として「記紀(きき)」という語が使われだしたことです。天皇制を称揚したい近代国家は、自分たちに都合のいい神話や伝承を再現するため、国定教科書などに古事記と日本書紀を混ぜ合わせて創った神話を載せました。それとともに「記紀」という語が使われだし、その結果として古事記は、日本書紀と同じく古代律令国家が編纂した、天皇のための、国家のための歴史書であるという強固な認識を植えつけられてしまったのです。

 

そのように政治的に利用された背景には、編纂の次第を記した古事記の「序」が大きく働いたと考えられます。この「序」はなんらかの意図によって後世に付け加えられたものであるとわたしは考えますが、その「序」が付いたために、古事記は事実とは異なる来歴をまとわされることになります。それが、古事記の真の理解が妨げられたもう一つの理由です。

 

■『NHK 100分de名著』2013年9月号より

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