教養

盛夏に詠みたい「鰻」の短歌


2013.08.05

夏バテに鰻を食べるという文化の歴史は古く、万葉集にも詠まれているほど。夏の風物詩とも言える「鰻」をモチーフとした短歌を「コスモス」選者の小島ゆかりさんが紹介する。

 

*    *    *

 

猛暑の八月。鰻の歌を読んで滋養をとりましょう。

 

石麻呂(いしまろ)に我れ物申(ものまを)す夏痩せによしといふものぞ鰻(むなぎ)捕(と)り喫(め)せ

大伴家持『万葉集』

 

痩(や)す痩すも生けらばあらむをはたやはた鰻(うなぎ)を捕(と)ると川に流るな

 

『万葉集』巻十六には、「戯笑歌」つまり人をからかって詠んだ歌が多く収められていますが、大伴家持の二首は、そのなかの「痩人(やせひと)を嗤笑(わら)ふ歌」です。

 

やせっぽちの石麻呂さんに詠みかけます。「石麻呂殿に申し上げます。夏痩せに効果てきめんということですぞ、鰻を捕って召し上がりなされ」。少ししゃっちょこばった言い方に、家持のいたずら心がうかがえます。石麻呂さんのほうもたぶん、からかわれていると知りながら、「鰻ねえ」なんて思ったりする。そこをすかさず「痩せに痩せているとはいえ、生きていけるなら儲けもの。はてさて、鰻を捕ろうとして川に流されなさるな」と、先ほど言ったことの揚げ足を取るように詠んでいます。

 

「痩す痩すも生けらばあらむをはたやはた」とはじつに調子がよく、しかもなんと念入りにからかっていることでしょう。いまのお笑いコンビでいえば、家持がツッコミの役割で、石麻呂がボケの役割。ゆっくりの石麻呂さんに早口の家持がツッコミを入れる。そんな場面ではないかしら。

 

現代の万葉学者歌人の、鰻の歌はどうでしょうか。

 

ひさびさに家族がそろい鰻屋にいっしょにひらく鰻重の蓋

佐佐木幸綱『ムーンウォーク』

 

子どもたちが大きくなってしまうと、家族そろって食事をする機会は少なくなります。この歌は、久しぶりに家族そろっての外食の場面。「いっしょにひらく鰻重の蓋」という下句、家族で楽しむ姿がたいへんいいですね。天重やカツ重ではいまひとつ。鰻重だからこそ、いっしょに蓋をひらいて、「おおー」と顔を見合わせるにちがいありません。

 

■『NHK短歌』2013年8月号より

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