教養

トルストイ「私は一般的傾向というものを憎んだ」


2013.07.14

トルストイの超大作『戦争と平和』。それを100分で味わえるのが、NHKテレビテキスト『100分de名著』2013年6月号だ。

 

ロシア文学者で東京大学名誉教授の川端香男里(かわばた・かおり)氏は、「トルストイは正に巨人の名を与えるのにふさわしい人です」と語る。「その思想・行動の振幅の大きさ、その苦悩の奥深さも巨人的です」という川端氏に同作とトルストイの生涯のかかわりを聞いた。

 

*  *  *

 

この巨人の生涯の中で『戦争と平和』がどのような位置を占めるかということを中心に『戦争と平和』解読の鍵となるような知識をいくつかあげてみましょう。

 

トルストイは自ら語っています──「私の性格の一つの特徴は……私自身に逆らってまでも、常に時流に乗じた勢力に抵抗したということである。私は一般的傾向というものを憎んだ」と。時代の「一般的傾向」を自分の自立性をおびやかすものと考え、それに抵抗することから常に出発するというわけです。ロシア文学の主流に対するアウトサイダー、批判者として登場したトルストイは、例えばロマン派の文学を不自然と感じとり、その代わりすでに「過去」のものとされていた18世紀のルソー、ヴォルテール、スウィフト、スターンなどに親しみをもったのです。異邦人、局外者、新参者、子供という既成概念に囚われないものの眼ですべて見直すという手法です。ピエールという戦争未経験者の眼で見られた『戦争と平和』の戦闘場面もそのいい例でしょう。

 

トルストイが18世紀から受け継いだ立場は、「自然」によって人為、文明を批判するということで、この立場はそのまま思想の領域にも適応されることになります。原始キリスト教、ナロード、コサック、ジプシーなどは「自然」を代表し、教会宗教、西欧などは、否定されるべき人為、文明の代表格となります。

 

最後に見落としてはならないことですが、トルストイが独立独歩の態度を貫き得たのは彼が地主貴族であったからです。生活のために闘わなければならなかったドストエフスキイやチェーホフとは全く違う世界にいたのです。ゴーゴリに発する「ちっぽけな」貧しい人間を描くという19世紀ロシア文学の伝統に逆らって、貴族の生活を真正面からとりあげた『戦争と平和』は、実はロシア文学史上希に見る大胆な挑戦だったのです。

 

■『NHK 100分de名著』2013年6月号より

 

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