教養

中国を代表する思想家・老子は本当に実在したのか?


2013.05.08

儒家思想と並ぶ中国を代表する二大思想のひとつ、道家思想の中心人物として知られる老子。書物『老子(老子道徳経)』を書いたとされ、現在でも読み継がれているが、経歴においては不明な部分が多く、専門家たちの間では“本当に実在したのか”とたびたび議論されている。

 

老子の人物像を知る手掛かりとして信用のおける最古の書物は、前漢時代の歴史家・司馬遷(しばせん)によって書かれた『史記』の「老子伝」だと東京大学名誉教授の蜂屋邦夫(はちや・くにお)さんは解説する。

 

*  *  *

 

「老子伝」には、老子と呼ばれる人物の候補として老耼(ろうたん)、老莱子(ろうらいし)、太史儋(たいしたん)の三人が挙げられています。これを見ても、司馬遷の時代(紀元前一○○年頃)には、老子がすでによくわからない人物とされていたことがわかります。

 

三人の老子候補のうち、もっとも詳述されているのが老耼です。老耼は楚の出身で、姓は李、名は耳(じ)、字(あざな)は耼(または伯陽)。老耼とは通称のようです。「耼」とは耳が長いという意味ですから、名の「耳」とあわせると、耳の長い人物であったと想像できます。周王朝の守蔵室の史、今でいう国立公文図書館の書記官のような仕事をしていました。

 

周王朝の力が衰えてきたのを感じ取った老耼は、役人の仕事を捨て、都の洛陽から牛の背に乗って西方へと旅に出ます。旅の途中にある関所まで来ると、関所の長官の尹喜(いんき)という人から「『道』について語ってほしい」と頼まれ、老耼はそこで上下二篇、五千字余りの書物を書き上げたそうです。これが今に伝わる『老子』の原型と考えられています。

 

他の二人の候補、老莱子と太史儋も、老耼と共通する点がありますが、三人の老子候補のうち、誰が本当の老子なのかは、わかりません。

 

■『NHK 100分de名著』2013年5月号より

 

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