教養

君主は寄生階級にすぎない


2020.02.03

唐の初代皇帝・李淵の次男、李世民は、皇太子の兄による暗殺の謀略を察知し、先手を打って兄を殺害、第二代皇帝として即位しました。略奪の汚名を返上すべく、優れた皇帝になろうと努めた李世民は、中国史上まれに見る平和な時代を築きました。『貞観政要』は、李世民が臣下と共に理想の皇帝像を模索した問答集です。立命館アジア太平洋大学学長の出口治明(でぐち・はるあき)さんと共に、太宗・李世民が考え、実践した名君の条件とはどんなものかがわかる箇所をピックアップして、読んでいきましょう。

 

*  *  *

 

貞観初年、太宗は臣下たちを前にこう述べました。

 

君(きみ)たるの道(みち)は、必(かなら)ず須(すべから)く先(ま)づ百姓(ひゃくせい)を存(そん)すべし。若(も)し百姓を損じて以(もっ)て其(そ)の身(み)に奉(ほう)ぜば、猶(な)ほ脛(はぎ)を割(さ)きて以て腹(はら)に啖(くら)はすがごとし。腹(はら)飽(あ)きて身(み)斃(たふ)る。

(巻第一 君道第一 第一章)

 

現代語訳ではこうなります。

 

君主としての道は、必ずぜひとも人民たちをあわれみ、恩恵を施さなければならない。もし、〔重税を取り立てなどして〕人民をむごく苦しめて、君主の身〔の贅沢な生活〕にあてるのは、ちょうど自分の足の肉を割いて自分の腹に食わすのと同じである。満腹したときには、その身が死んでしまう。

 

ここで太宗は、人民を「足」に、君主を「腹」になぞらえています。そうすることで、君主と政府と人民が一体であることを家臣に伝えているのです。

 

空腹を満たそうと思い、たくさんの肉を食べた。けれど、その肉が自分の足の肉だとしたらどうでしょうか。食べるたびに足が衰えて、いずれは立っていられなくなり、身を滅ぼしてしまいます。人民と君主の関係も同じです。君主の贅沢のために重税を課せば、人民は疲弊します。君主を恨むものが出てくるかもしれません。これでは国の安泰は図れない。だから太宗は自身の贅沢を戒めたのです。

 

太宗は続けて述べます。

 

人がその身を破滅するのは、〔その原因が〕外部から来るのではなくして、すべて、〔その人自身の〕欲望のために破滅の禍(わざわ)いを招くのである。もし、うまい料理ばかりを食べ、音楽や女色を愛好すれば、欲望は限りなく多く、〔それに要する〕費用もまた莫大である。それは、政事の妨げとなる上に、また、人民の生活を乱すものである。その上にまた、君主が一つでも道理にはずれた言を出せば、万民は、そのために統一が乱れ、君主を恨(うら)みそしる声が起こり、離反や謀反(むほん)をする者も起こる。我は、常にこういうことを思って、決して自己の欲望のままにかって気ままな行為はしないのである。

 (同前)

 

当時の根幹となる産業は農業でした。しかし、太宗が自ら畑を耕し収穫を行っていたわけではありません。太宗を支えていたのは、人民がつくる農作物や、彼らが納める税金でした。つまり、人民が生産階級だとすれば、君主(リーダー)は、人民に頼るしかない寄生階級なのです。太宗はそのことをよくわかっていました。人民が弱れば、寄生階級である自分も死ぬ。だからこそ太宗は、人民が気持ちよく働けるゆとりを奪うような重税を課すことはしませんでした。

 

君主が贅沢をしたために国が滅んだという例は、世界史にいくらでもありますね。フランス革命も、ルイ十四世、ルイ十五世が宮廷で贅沢をし、戦争にお金を使いすぎたことがそもそもの発端でした。

 

■『NHK100分de名著  呉兢 貞観政要』より

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