教養

語句の反復がもたらす余韻を感じて 初恋を詠んだ歌


2019.06.19

『NHK短歌』の講座「短歌de胸キュン」、2019年6月号のテーマは「初恋の人」です。「未来」選者の佐伯裕子(さえき・ゆうこ)さんが、初恋の人を詠った短歌を紹介します。

 

*  *  *

 

「恋」は短歌の大きなテーマになっていますが、とりわけ一度きりの「初恋」は重要な位置を占めています。幼く淡い恋から、初めて深い情を交わした相手まで、どの恋を「初恋」とするのかは人によって異なるでしょう。相手もさまざまで、あまたの恋の歌から初恋を見極めるのは難しい。そのなかで、初恋の人をうたったのではないかと思われる歌を探しました。

 

今回はリズム感を出す反復する語句に注目します。短歌によく使われる句や語の繰り返しは、童謡や子守歌にもリフレインとして多く登場します。すぐに北原白秋作詞の童謡「赤い鳥小鳥」などが浮かんできます。言葉の繰り返しは、リズム感がよく、安心や快感や懐かしさをもたらしてくれるのです。また恐れの余韻を残す場合もあります。余韻の効果を考えて、初恋の歌を読んでみましょう。

 

おもひでは芯もつごとし手のなかにかならずのこる人やその芯

小池純代(こいけ・すみよ)『雅族』

 

「おもひで」としてうたわれる若い日の恋です。心に長く引っかかっている「人」が、こつんと手のなかに残っています。どのような恋なのかは分かりません。その思い出の「芯」にいる忘れがたい「人」。遠回しな言い方でしか表しようのない恋の記憶でしょう。「かならずのこる」という辺りに、ただの思い人ではない感じが漂っています。「おもひでは芯もつごとし」と感嘆しつつ、結句で反復される「芯」の印象深さはどうでしょう。そこに、歳月をかけた思いの深さが刻まれるのです。初恋だったのではないでしょうか。忘れがたい恋を伝えるのに、「芯」の繰り返しが深々と余韻を残しています。

 

抱きあえば揚げひばり啼くわがうちの虚空にきみのなかの虚空に

渡辺松男(わたなべ・まつお)『けやき少年』

 

「揚げひばり」の初夏のイメージが、若い恋を連想させています。ただ抱きあうことしか知らない二人、といっていいかもしれません。初夏の初々しい抱擁が連想されるでしょう。雲雀の鋭い鳴き声が、それぞれの胸の鼓動のように読めてきます。

 

「わがうちの虚空に」「きみのなかの虚空に」という繰り返しからは、たがいに似ている恋人が想像されます。抱擁のさなかは、二人のほかに何も見えない虚空なのです。熟した恋からは遠く、おそるおそる抱きあう二人。そのうえで、「虚空」の繰り返しが、何とも仄暗い。どこか未来への不安を暗示しているかのようです。

 

■『NHK短歌』2019年6月号より

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