教養

哲学者として評論家として


2019.02.26

スペインを代表する哲学者であり思想家であるオルテガ。その人物像を、評論家で東京工業大学教授の中島岳志(なかじま・たけし)さんが解説します。

 

*  *  *

 

オルテガは1883年にスペインの首都マドリードで生まれました。父親は高名なジャーナリストで、母方の祖父は大新聞のオーナーというジャーナリズムの家系。本人もしばしば「私は輪転機の上で生まれた」という言い方をしています。

 

とても早熟な少年だったとされ、本当かどうかは分かりませんが、4歳で本を読みはじめ、7歳で『ドン・キホーテ』の第一部を暗記してみせたという逸話も残っています。長じて、マドリード大学で哲学の博士号を取得したのち、カント研究のためにドイツに留学。そして帰国後に、大学で教えながら評論家としても活躍するという、二つの職を股に掛けての活動をはじめるのです。

 

つまり彼は、哲学者として象牙の塔にこもるのではなく、その研究を通じて現代社会をどう見るのかということに非常に関心のあった人だと思います。27歳でマドリード大学の教授になるのですが、その後も論文執筆だけに専念することはなく、新聞などに時評を発表し続けた。これは、生涯一貫して取り続けた姿勢です。

 

私自身も経験がありますが、学者が時評を書くことについて、しばしば本筋ではないというか、一段劣った活動をしているかのように言われることがあります。しかしオルテガは、そうは考えなかった。

 

それは、彼が「大系」というものを疑っていたからだと思います。人間が、完成された哲学大系を理知的な能力によってつくることができるということ自体に、大きな疑いをもっていた。それよりも、「自らの目の前で起きている事象をどう見るべきか」を伝えることによって、自分の思想を示すことができるという感覚があったのだと思います。

 

また、「専門家は間違える」ということも、オルテガの主張し続けたことでした。なぜなら、専門を知らないからではなく、「専門しか知らないから」。人間は非常に複雑でややこしい存在であり、その人間によって構成されている社会もまた、複雑でややこしい。それを理解するためには、いろいろな角度からものを見て、考えてみる必要があると考えていたからこそ、研究の世界だけにこもらず、時評を書き続けたのではないでしょうか。

 

■『NHK100分de名著 オルテガ 大衆の反逆』より

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