教養

釈迦を乗り越えようとする般若心経


2013.03.01

「『般若心経』はある意味、釈迦の教えを否定する経典です」と語るのは、花園大学教授の佐々木閑(ささき・しずか)氏だ。なぜ釈迦の教えを越えようとするのか。その理由を佐々木氏に聞いた。

 

*  *  *

 

『般若心経』に「五蘊(ごうん)」という言葉が出てきます。これは、「われわれ人間はどのようなものからできていて、どのようなありかたをしているのか」ということを釈迦が分析し、独自の思想から五つの要素に分けて把握したものです。その五つの要素とは、「色」「受」「想」「行」「識」の五種類です。

 

人間という存在は、この五つの要素が、ある特定の法則にしたがって作用しあい、関係しあうことによって存在している、と釈迦は考えました。「五蘊はある」と釈迦は言ったのです。

 

ところが『般若心経』は、「そのような五蘊はぜんぶ錯覚だ、実体のないものだ」と主張するのです。それが、「照見五蘊皆空(しょうけんごうんかいくう)」(五蘊があり、そしてそれらの本質が空であると見た)という言葉の意味です。そして、錯覚であると悟ったからこそ、この世の一切の苦しみや憂いから解放されたというのです。

 

このように、『般若心経』はある意味、釈迦の教えを否定する経典です。釈迦の時代の教えを「錯覚である」と言って否定し、それを超越するようなもう一つ高次の理論をその上にかぶせ、みずからが釈迦の時代の教えよりも上位に立つことを目指した、そういう経典なのです。

 

■『NHK 100分de名著 般若心経』2013年1月号より

このエントリーをはてなブックマークに追加

  • テキストビュー300×56

000000817192017_01_136

NHK「100分de名著」ブックス ルソー エミール

2017年08月25日発売

定価 1080円 (本体1000円)

000000817152017_01_136

NHK「100分de名著」ブックス 良寛詩歌集

2017年04月25日発売

定価 1080円 (本体1000円)