教養

19世紀イギリスにおける結婚の意味


2017.08.05

19世紀イギリス小説の礎となったジェイン・オースティンの『高慢と偏見』。この作品をより深く楽しむには、当時の結婚観を理解しておくことが必要でしょう。京都大学大学院教授の廣野由美子(ひろの・ゆみこ)さんに解説していただきました。

 

*  *  *

 

第一章冒頭の有名な書き出しで、語り手はこう述べています。「財産のある独身男性なら、妻をほしがっているにちがいないということは、普遍的真理である」と。これはまさに、当時の結婚に関する通念です。「普遍的真理」として大上段に振りかざすような哲学的命題でもなんでもないところに、皮肉がこめられています。どちらかというと男性側よりも女性の家族側からの見方のようですが、とにかく女性にとって結婚とは、人生において絶対に確保すべき要素である、ということが冒頭から宣言されているのです。

 

第二十二章には、女主人公エリザベスの友人シャーロットが、年齢的に婚期を逸しかけているため好きでもないコリンズの求婚を受け入れる、という箇所があります。そこで語り手は、彼女が結婚を決めた理由について、こう述べています。「教育があっても財産の少ない若い女性にとっては、結婚は、名誉を保ちながら生きてゆく唯一の道であり、たとえ幸せになれるかどうかは不確かでも、欠乏を免れるための最も望ましい方法だった」と。

 

これはシャーロットの考え方の表明であると同時に、当時の社会状況を映し出す言葉であるとも言えるでしょう。十九世紀の一般的な女性にとって、社会的地位と経済力を確保するには、通常、結婚という選択肢しかありませんでした。中産階級以上の女性にとって、淑女(しゅくじょ)としての品位をどうにか保てる職といえば、世紀末になって教職や公務員、看護職などの地位が上がるまでは、文筆業か女家庭教師くらいでした。何と言ってもいちばん高く評価されていたのは、結婚して主婦になること。妻が「家庭の天使」であるべきだという価値観が通底していた19世紀において、結婚とは女性にとって、職業と同義だったとも言えるのです。

 

■『NHK100分de名著 ジェイン・オースティン 高慢と偏見』より

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