教養

欲望まみれだった若き日のガンディー


2017.03.03

ガンディーは「自己統制」を非常に重視しました。また、飲酒や肉食をしない、ものを所有しないなど、極端な禁欲主義を唱えてもいます。「欲望」に非常にこだわり、それを「乗り越えろ」と言い続けた人なのです。

 

ただ、知っておかなくてはならないのは、彼が「欲望を乗り越えろ」というとき、常に念頭にあったのは「自分がいかに若いとき欲望まみれだったか」という話だということです。これは、ガンディーの思想を知る上で非常に重要な部分だと、東京工業大学教授の中島岳志(なかじま・たけし)さんは指摘します。彼の若き日、前半生を振り返ってみましょう。

 

*  *  *

 

ガンディーはインド西部のグジャラート州で、商人の家に生まれました。カーストはそんなに高くありませんが、それなりに裕福な家だったようです。

 

母親は非常に敬虔なヒンドゥー教徒で、肉食をせず、断食も欠かさず行うなど、宗教的戒律を厳しく守っていた人でした。にもかかわらず、ガンディーはあえて肉食をしてみている。さらにはたばこを吸ってみたり、そんな自分に絶望して自殺未遂したりと、要するに非常な問題児だったのだと思います。さらに、これはガンディー自身も自伝(『ガーンディー自叙伝 真理へと近づくさまざまな実験』全二巻、田中敏雄訳注、東洋文庫)で、まるで自分自身をえぐるかのような筆致で書いているのですが、ヒンドゥー社会にはチャイルド・マリッジ(幼児婚)という伝統があり、ガンディーも若くして結婚をしました。どうも、幼いときに親が勝手に婚約を決めたようで、自伝によれば三回婚約したそうです。ただ、最初の二回についてはほとんど記憶がなく、三人目の婚約者であるカストゥールバーイーが、ガンディーの生涯の妻となりました。

 

結婚したとき、ガンディーとカストゥールバーイーはどちらもまだ13歳。あまり分別がつかない年齢のうちに結婚生活がはじまったわけで、ガンディーは完全に性欲におぼれてしまいます。自伝には「学校にいてもそのことを考え、いつ夜になるか、いつ自分たちが会えるか、このことばかりが気にかかっていました」とあります。

 

嫉妬心もふくれあがり、妻を完全なコントロール下に置きたがりました。妻が「友達と遊びに行きたい」と言っても「駄目だ」と言ったりして、ほとんど自由を与えなかった。その結果、カストゥールバーイーは文字を覚える機会を十分に得ることができず、晩年になってようやくたどたどしい字で手紙を書くことができるようになったといいます。「妻として夫の言うことを聞くのが厳粛なヒンドゥー教徒の生き方だ」といって妻の自由を奪い、夜になれば肉体的なことを求める。ガンディーは、そんな凶暴な夫だったのです。

 

そうした日々を反省的に捉える契機が訪れたのは、彼が16歳のときでした。尊敬する父親が、重い病気で倒れて伏せってしまうのです。ガンディーは熱心に看病をするのですが、その一方で妻と抱き合いたい欲望が抑えられず、自分の部屋に戻っては妻と過ごすということを繰り返していました。

 

ところがある日、いつものように看病をそっと抜け出して寝室で妻と抱き合っているときに、父親は容態が急変して亡くなってしまいます。ガンディーは死に目に会えなかったのです。

 

このことを、ガンディーは生涯、自分に対する天罰だと考えていました。「父を殺したのは、私の性欲である」とも言っています。自分の欲深さを知り、その欲深い自分に絶望するということを、ずっと繰り返してきた人物なのです。

 

名誉欲や出世欲も人一倍強かった彼は、20代のときに妻と幼い息子を置いて単身イギリスに渡ります。そこで弁護士になるために猛勉強をするのですが、一方でダンスパーティに行って羽目を外したり、独身だと偽って若い女性と散歩を楽しんだりもした。過ちには至らなかったものの、あるイギリス人の女性に恋心を抱いたこともあると、自伝では赤裸々に告白しています。

 

それだけではなく、イギリスでのガンディーは、ヒンドゥー教の菜食主義者の団体に出会い、もう一度自分なりにヒンドゥー教というものを見つめ直そうともしています。しかし、そんなに簡単に欲望を捨てられるわけではありません。そんな自分に対してずっと葛藤を続けたのが、ガンディーのイギリスでの日々だったのです。

 

■『NHK100分de名著 ガンディー 獄中からの手紙』より

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