教養

俳句と和菓子に通い合う心


2017.01.19

「ランブル」主宰の上田日差子(うえだ・ひざし)さんは、旅先で銘菓を求めることを趣味としているとか。そのきっかけは、父であり師でもあった俳人・上田五千石(うえだ・ごせんごく)の書棚で見つけた一冊の本でした。

 

*  *  *

 

私が俳句初心の頃、父の書棚よりとり出して愛読した一冊の本がある。中村汀女(なかむら・ていじょ)著『伝統の銘菓句集』(女子栄養大学出版部)であり、今は私の座右(ざゆう)の書となっている。

 

全国の銘菓が、風情に合わせた菓子皿や菓子盆にのせられ、春夏秋冬に分けて掲載され、映像としての美しさとともに銘菓に添えられた汀女の一句と短文が見事なのである。たとえば奈良の干菓子「青丹(あおに)よし」には、〈塔そこにある安らぎに草萌ゆる〉、東京の「羽二重(はぶたえ)団子」には、〈川明り彼岸詣の後や先〉、福岡の「鶴乃子(つるのこ)」には、〈冬の梅手にのせて更に菓子つぶら〉と句に寄せる心遣いが優しい。

 

あとがきに汀女は、「どこのどの菓子も、珍しく美しく、おいしく、どれも捨てがたく、私をいたわってくれるものばかりでありました。/菓子に関する俳句というよりは、その日そのときの、私の思いということにもなるのであります」と著(しる)されている。また、菓子は「大事な友人」であるとも。

 

この汀女の一書から多くの銘菓への憧(あこが)れを抱き、旅に出た折に探し求めるようになった私である。今日(こんにち)ではデパートで諸国銘菓が常に買える時代となっているが、やはり当地で求める時の嬉しさは格別である。老舗(しにせ)の暖簾(のれん)をくぐって菓子舗に入る時のときめきは、恋しい人に逢う心にも似ている。春はのどやか、夏は涼しく、秋は爽やか、冬は暖かくという和菓子の心は、俳句の挨拶(あいさつ)の心に通い合う。

 

■『NHK俳句』2017年1月号より

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