教養

ポケモン、「ゆるキャラ」──現代日本人の中に生きる「野生の思考」


2016.12.30

「野生の思考」と「出来事」の世界との矛盾を調和させようと努力して、一定の成功をおさめているように見える世界がある。それが日本である──。そんな風に考えていたのではないかと思わせるほどに、フランス人の人類学者クロード・レヴィ=ストロースが日本に注いでいた関心と愛情には格別なものがありました。計5回もの来日を重ねたレヴィ=ストロースは、日本で受けた印象の一つとして、この国の人々は「自然を人間化する」と語りました。日本には人間の手の入っていない風景はほとんどなく、自然といわれているものにも、何らかの形で人間の「はたらき」が入っている。それは、職人の仕事における「はたらき」と同じ受動的な性格をもち、それをもって日本人の環境はつくり出されてきたのではないか──。明治大学野生の科学研究所所長の中沢新一(なかざわ・しんいち)さんは、現代日本人の中に「野生の思考」が根強く生きていると考えます。

 

*  *  *

 

私は以前に『ポケットの中の野生』(1997、新版『ポケモンの神話学』2016)という「ポケモン(ポケットモンスター)」研究の本を書きましたが、そこでもこのことがテーマとなりました。最近ではポケモン関連ゲームの最新作「ポケモンGO」が世界中を席巻していますが、ポケモンというキャラクター自身が「自然を人間化する」という主題にとり組んでいます。モンスターという人間の外にある存在とインターフェイスをつくって、自分の身近に持ってくる。自然も含めた非人間の領域にみちている力を151匹のモンスターとして分類化し、具象化します。さらにその内部を「ほのお」「みず」「エスパー」「くさ」などの属性にしたがっていくつもの種に分類して、分類されたモンスター同士を戦わせます。「戦う」というよりも分類された自然力の間に交換現象をなりたたせています。このゲームが1996年に登場したとき、「これはまるで『野生の思考』の世界ではないか」と思ったものです。

 

現代日本人の中に「野生の思考」と同じものがまだ生きていて、しかもそれがデジタル産業の中で活躍しているのです。「ポケモン」の生みの親であるゲームクリエイターの田尻智氏は、少年時代を過ごした東京郊外の町田の虫捕り経験がこのゲームの元になっていると語っていました。その頃の町田はいまよりももっと自然が濃く、里山環境が広がっていました。そこでの虫捕り体験を元にしてゲームの世界を創造してみたら、その世界はなんと「野生の思考」を彷彿とさせるものとなってしまいました。おそらくこの「自然を人間化する」ことに巧みであることが、ゲームやアニメのような日本文化の産物の「クールさ」のおおもとになっています。「クール」は文字どおり「冷たい社会」の思考である「野生の思考」が生み出すもので、そのためポケモンは極上の「クールさ」をたたえているのでしょう。

 

さらに追求を深めれば「ゆるキャラ」などもあやしいと思います。私はこれは縄文時代の土偶の伝統につながる作品だと思っています。「ゆるキャラ」は、梨であったり、熊であったりと、動植物の精霊が人間の世界に入り込んできた姿です。これも一種のモンスターでしょう。そういう自然力のモンスターをどのようにして人間界に取り込むかということに、日本人は異常な熱意をもってとり組み、他の民族がまねのできない才能を発揮します。しかも面白いことにこういう「ゆるキャラ」が、各地の市町村の「トーテム」になっています。レヴィ=ストロースならずとも、日本は本当に近代化された技術経済大国なのかと、驚きを持ってしまいます。

 

昔の大阪・船場の商家の暖簾(のれん)がやはりトーテムでした。じっさいそのデザインは、アメリカ先住民のトーテムポールとそっくりです。先住民の各氏族は自分のトーテム文様を家の前に立てた柱に彫り込みましたが、昔の大阪の暖簾はそれとまったく同じで、店の前に、家の紋と名前を染め抜いた大きな布の暖簾をかかげたのです。古い記念写真などを見ると、丁稚たちがポーズを取って、「自分たちはこの氏族に属している」といわんばかりに、商人集団のトーテムである暖簾を背負って立っています。船場における商人の慣行や習俗を見てみますと、まさに部族社会の「野生の思考」そのものです。

 

ヨーロッパなどでは各都市国家が威厳のある紋章や、立派な象徴物をつくっていますが、日本では自治体みずからが「ゆるキャラ」をトーテムとしている。この奇妙でクールな光景は、日本文化の底に「自然の人間化」のテーマが深く埋めこまれていることからもたらされたものにちがいありません。

 

■『NHK100分de名著 レヴィ=ストロース 野生の思考』』より

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