教養

生きる意味を問う『夜と霧』(V・E・フランクル)


2013.03.21

精神科医ヴィクトール・E・フランクルが著した『夜と霧』は、第二次世界大戦の際、ナチスの強制収容所に収容されたフランクルが、みずから味わった過酷な経験をつづった本だ。

 

ナチスのユダヤ人迫害は非道を極め、ゆえに、この本も目を覆いたくなるような陰惨なドキュメンタリーになってもおかしくはなかった。しかし、そうはならず、むしろ、世界中の人々の感動を呼び、時代を超えて読み継がれる超ロングセラーになった。

 

なぜであろうか。2012年8月に放送された「NHK 100分 de 名著」で『夜と霧』のゲスト講師を担当した明治大学文学部教授の諸富祥彦(もろとみ・よしひこ)さんに、同作が描く人間精神の崇高さと、フランクルの思想のエッセンスを聞いた。

 

*  *  *

 

フランクルの思想は、人生に対する見方(立脚点)を180度転回することを私たちに求めてきます。

 

たとえば、「人間が人生を問うに先立って、人生から人間は問われている」「幸福を求めると、幸福は逃げていく」「悩むことは人間特有の能力である」といったように、です。

 

フランクルを読むうちに、私たちは、「私の幸せはどうすれば手に入るのか」「私の自己実現はどうすれば可能なのか」という「私中心の人生観」を、「私は何のために生まれてきたのか」「私の人生にはどのような意味と使命(ミッション)が与えられているのか」という「生きる意味と使命中心の人生観」へと生きる構えを180度転回することが求められるのです。

 

フランクルの思想のエッセンスは次のようなストレートなメッセージにあります。

 

どんな時も、人生には意味がある。

 

あなたを待っている“誰か”がいて、あなたを待っている“何か”がある。

 

そしてその“何か”や“誰か”のためにあなたにもできることがある。

 

このストレートな強いメッセージが多くの人の魂をふるわせ、鼓舞し続けてきたのです。

 

フランクルが『夜と霧』を書いた頃のヨーロッパと今の日本とでは、考え方が異なるところも少なくないでしょう。時代もずいぶん変わりました。私たちは今、強制収容所のような特殊な環境にいるわけでもありません。

 

しかし『夜と霧』は、そうした時代の違いを超えて私たちの心に響く真理に満ちています。否、私たちが生きているこの時代は、収容所とはもちろん違った形ではあるけれども、生きる意味と希望を見出すのが困難になっているという意味では、現代を生きる私たちも「見えない収容所」の中にとらえられて生きている、と言っていいような面がないわけでもありません。

 

フランクルの言葉の中に、一つでも、生きる意味と希望を求めていく手がかりを見つけてくだされば幸いです。

 

■『NHK100分 de 名著』2013年3月号より

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