教養

おちこぼれのドラ息子だったダーウィン


2015.08.23

1859年に出版した『種の起源』で、「進化」の科学的世界観を提示したチャールズ・ダーウィン。幼少時から天才の片鱗を見せていたかと思いきや、実はおちこぼれ学生であったという。進化生物学者・総合研究大学院大学教授の長谷川眞理子(はせがわ・まりこ)氏が、その軌跡を辿る。

 

*  *  *

 

チャールズ・ダーウィンは1809年、イングランドの西部シュロップシャー州シュルーズベリの裕福な家庭に生まれました。父親は医者で、母親は陶器ブランドとして世界的に有名なウェッジウッド社創始者の娘です。子どもの頃のダーウィンは、狩猟や昆虫採集に明け暮れ、勉強には熱心ではない、いわば落ちこぼれでした。でも、決して勉強が嫌いだったというわけではなく、興味があることには一生懸命になるタイプ。化学に興味を持っていた兄が家の温室で行なっていた化学実験には、いつも一緒に熱中していたというエピソードが残されています。

 

ダーウィンは、やがて家業の医者を継ぐために、エジンバラ大学に進学しますが、残念ながら彼は医者には向いていませんでした。当時は、今と違って麻酔のなかった時代です。恐怖と痛みで泣き叫ぶ患者を押さえつけながら、血まみれになって施術を行なう外科実習の授業が彼には耐えられませんでした。麻酔なしの子どもの手術に立ち会って以来、手術の授業を欠席するようになり、しまいには退学してしまいます。

 

とはいえ、エジンバラでの生活が彼にとってまったく意味がなかったというわけではありません。解放奴隷の黒人に鳥の剝製(はくせい)のつくり方を習ったり、南米の熱帯の自然や奴隷の生活について話を聞いたり、時間のある時は博物誌関連の本を読んだりと、学業以外の部分では大きな刺激を受けています。おそらくはこうした経験のなかで、彼は博物学というものに興味を持つようになったのでしょう。

 

医学の道を断念したダーウィンは、父親のすすめで今度はケンブリッジ大学で神学を学ぶことにします。息子に社会的に尊敬される仕事に就いて欲しかった父親は、牧師の道をダーウィンに提案し、ダーウィンもそうすることにしたのですが、彼はとくに学業に熱心というわけでもなく遊びほうけてばかりいました。

 

しかし、ケンブリッジ大学で、その後の彼の人生に絶大な影響を与えることになる二人の人物に出会います。一人は地質学者アダム・セジウィック、もう一人は植物学者ジョン・スティーヴンス・ヘンズローです。ダーウィンはこの二人の授業だけは熱心に受講し、個人的にも親しく交流を重ねることになります。

 

1831年、大学を卒業して実家に帰っていた時、ダーウィンにとっての人生の転機ともいうべき出来事が起こります。母校のヘンズロー教授から「ビーグル号で世界一周の旅に出てみないか?」との誘いの手紙が届いたのです。ビーグル号とは、南アメリカ大陸の海岸線の調査や海図制作を目的とした世界一周の探検船で、乗船期間は五年間。ダーウィンが依頼された任務は、表向きは地質学者、実際には船長の「話し相手」というものでした。当時、船長は立場上、船員たちとの個人的な会話が禁じられていたので、孤独を癒すための話し相手となる紳士がどうしても必要だったのです。

 

好奇心旺盛なダーウィンにとっては願ったり叶(かな)ったりの話です。なんとか父親の許しを得た彼は、晴れてビーグル号に乗り込みます。彼には船長の話し相手以外に特別な任務があるわけではないので、船上では読書三昧(ざんまい)の日々を過ごすことになります。その時に読んだ本のなかでダーウィンが感化された一冊として挙げているのが、地質学者チャールズ・ライエルの著書『地質学原理』です。この本には「地球は土地の隆起や土砂の蓄積、風化など、自然法則によってつくられた」という「斉一説(せいいつせつ)」が書かれていました。「神がこの世のすべてを創造したという説から離れて、自然界の普遍法則によって自然を説明する」という新しいモノの見方をダーウィンはこの本で学ぶことになります。

 

■『NHK100分de名著 ダーウィン 種の起源』より

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