教養

びっくりして嬉しくなる俳句


2015.04.04

『NHK俳句』4月号からスタートする講座「びっくりして嬉(うれ)しくなる俳句」の選者を務めるのは、40歳近くになって俳句に出会ったという俳人の池田澄子(いけだ・すみこ)さん。読んでみてハッとするような驚きの発見がある俳句を紹介していきます。

 

*  *  *

 

俳句を作っていて、あるいは人の俳句を読んでいて、何が一番嬉しいかを考えてみると、私の場合は、その一句に、私の思い至ったことのないコトが見つかったときのような気がします。こんなことを考えたことがなかったとか、そういう情景をしょっちゅう私も見ていたのに、そのことを俳句にしようとは思ったこともなかったとか、こういう思いをこういう言葉で表現しようと思ったことはなかったとか、こんなつまらない小さなことが俳句になるとは考えもしなかったとか、いろいろあります。

 

そのように驚くたびに、俳句が好きになります。その驚きが自分の作った俳句に向けられることがあれば、どんなに嬉しいか。え? 私はこんなことを思っていたの? 私はこういうことにときめく人だったの? と驚きたくて思いたくて、俳句を作っているのかもしれません。

 

脳科学者の茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)さんが、アハ効果とかいうことを話していらっしゃったことがありました。あ、そうだっ! と思ったときに、脳が活性化するとか、そんなことでした。一句を読んだときに、アハッ、そうかぁと思いたいのです。その喜びのために俳句を作っているような気がします。

 

ところで、四月と言えば桜。

 

今頃は桜吹雪(ふぶき)の夫(つま)の墓

飯島晴子(いいじま・はるこ)

 

この句を読んだ途端、正確に言えば読み進めながら、墓が桜吹雪に取り囲まれている景が目に浮かびます。周囲に建物もない墓地、墓原にきりなく降りかかる桜吹雪。少しの風の通る明るい墓地、その中の夫の墓。まるで見知った墓でもあるかのように目に浮かびます。そしてハッとします。作者がその花吹雪の中には居ないということにです。

 

作者は桜を見ていない。見た桜吹雪を詠(よ)んではいない。作者は今の自分の居場所も、自分のしていることも明かしていませんし、哀しいとも懐かしいとも言ってはいません。俳句には、写生したモノが最も力を発揮するのですが、この桜は思いの中の風景。読者は、一句に出会って桜を思い描き、その後に、作者のことは何も詠まれていないことに気付き、作者がどこで何をしているのかも、皆目(かいもく)分からないことに気付くのです。

 

花を見ていない花の句です。桜を見ていない、と詠まれているのに、いえ、だからこそかもしれません。花が理想の姿を思わせることにびっくりします。

 

■『NHK俳句』2015年4月号より

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