教養

永遠には続かないけれどかけがえのない瞬間――「家族」をうたう


2015.01.09

家族というテーマでどんなことが思い浮かぶでしょう。楽しかった思い出、けんかや労(いた)わり、喜びや心配事。日常生活をともにする最小の集団にはたくさんの場面や感情が生まれます。どんな家族であるかイメージを思い浮かべてもいいですし、日常の場面や交わした会話、一緒に行動したことなどを思い出してみましょう。「かりん」編集委員の梅内美華子(うめない・みかこ)さんが家族をテーマとした歌を紹介します。

 

*  *  *

 

家族あるいは父や母、子に付随するイメージや概念にとらわれずに、自分にとってどんな存在であるか、固有の体験をまじえてうたってみるのがよいと思います。

 

たつたこれだけの家族であるよ子を二人あひだにおきて山道のぼる

河野裕子『はやりを』

 

昭和五十年代にうたわれた作品です。両親二人の間に二人の子供を挟んで山道をのぼる、現代の核家族の典型的な構成です。「たつたこれだけの家族であるよ」には、小さな家族だけれど確かにいま自分たちはこの四人で生きているのだという、かけがえのない瞬間を嚙みしめている作者の思いがこめられています。「子を二人あひだにおきて」は場面が浮かんでくる具体的なフレーズです。両親とか夫婦という語を用いていなくても、並んで歩く姿が浮かび上がってきます。

 

デザートのいちご争ひ華やげば仮象のごとし夕の家族

佐藤通雅『美童』

 

「夕」はゆうべと読みます。デザートに苺(いちご)が出て子供が喜んでいる。大きさを見比べたり、誰が何個だと言ったり、苺をめぐってにぎやかな食卓になりました。父である作者はその団欒(だんらん)を楽しく眺めながら、「仮象(かしょう)のごとし」と客観視しています。眼前の光景をこの世の仮の姿と喩(たと)えており、上の句とはちがう視点を入れています。「未然形+ ば」のあとには上の語のつながりに近い、予期する結果が続くのですが、この歌では「華やげば」のあとに、「仮象」という意味的に離れた言葉が続いています。それによって家族の団欒を俯瞰(ふかん)する視点が付け加えられました。永遠には続かないゆえに大切なものであることを強く感じているのです。

 

■『NHK短歌』2015年1月号より

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