教養

元ネタは清少納言の実体験! リアリティあふれる男女の逢瀬


2014.10.25

平安時代の随筆文学『枕草子』の作者清少納言は生涯で二度結婚したほか、恋人が複数いたと伝えられている。日本語学者で埼玉大学名誉教授の山口仲美(やまぐち・なかみ)氏によると、清少納言は実体験を通して、男と女の関係を鋭く観察しており、それが「男と女はこうありたい!」という洞察として表れたのだとか。

 

*  *  *

 

たとえば、「しのびたる所(ところ)にありては」(七〇段)に、理想的な逢引(あいびき)の場面が描かれています。みなさんは、デートで一番いい季節は何時(いつ)だと思いますか? そう、夏。それから冬も意外といいんですね。清少納言は、まず夏の逢引の楽しさをこう述べています。

 

いみじく短(みじか)き夜(よる)の、明(あ)けぬるに、つゆ寝(ね)ずなりぬ。やがてよろづの所(ところ)あけながらあれば、涼(すず)しく見(み)えわたされたる。なほいますこし言(い)ふべきことのあれば、かたみにいらへなどするほどに、ただゐたる上(うえ)より、烏(からす)の高(たか)く鳴(な)きて行(い)くこそ、顕証(けしょう)なる心地(ここち)してをかしけれ。

 

「すごく夜が短くて、あっという間に明けてしまうので、全く寝ないで終わってしまう。そのまま、どこもかしこも昼間と同じように開け放したままにしてあるので、早朝の庭も涼しく、見通しがきいている。一晩中語り明かしたけれど、やはり、もう少し話したいことがあるので、互いに受け答えなんかしているうちに、座っている部屋の真上を通ってカラスがかあかあと大声で鳴いて行くのは、逢引がばれちゃったような気がして、おかしくなっちゃう」。夏の逢引の楽しさが出ていますね。おしゃべりしていて、日が高くなってくると、カラスが忍び会いを見ていてみんなに報告するかのように大声で鳴いて飛んでいく姿などとてもユーモラス。

 

一方、冬についても、こう言います。

 

冬(ふゆ)の夜(よる)いみじう寒(さむ)きに、うづもれ臥(ふ)して聞(き)くに、鐘(かね)の音(おと)の、ただ物(もの)の底(そこ)なるやうに聞(きこ)ゆる、いとをかし。鳥の声も、はじめは羽(はね)のうちに鳴(な)くが、口(くち)をこめながら鳴(な)けば、いみじう物深(ものふか)く遠(とお)きが、明(あ)くるままに、近(ちか)く聞(きこ)ゆるもをかし。

 

「冬の夜のすごく寒い時に、すっぽり蒲団(ふとん)をかぶって共寝をしていると、お寺の鐘の音がまるで何かの底で鳴っているように聞こえるのが、とてもすばらしい。ニワトリの声だって、はじめは羽の中に嘴(くちばし)を突っ込んだまま口ごもるように鳴くので、ずいぶん遠くで鳴いているように聞こえたのに、夜が明けるにつれて、すぐ間近に聞こえるのも味わいがあるわねえ」。今ほど暖房設備が整っていなかった当時、冬の季節の逢引は、頭から夜着(よぎ)をすっぽりかぶり、その中で肌を温め合う。他の季節とは違った楽しさがあり、清少納言はそれが結構気に入っていたのです。彼女の体験に裏付けられた男女の逢瀬。リアリティにあふれていますね。

 

■『NHK100分de名著 清少納言 枕草子』2014年10月号より

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