教養

アウトドアの臨場感あふれる短歌


2014.08.05

屋外での活動をアウトドア・アクティビティと言い、一般的には省略されてアウトドアと呼ばれる。自然の中で行動するときは、日常の仕事や家庭のことなどから離れて、心身を解放するような気分が味わえる。そんなアウトドアは、短歌の題材としても好まれている。「かりん」編集委員の梅内美華子(うめない・みかこ)さんが、アウトドアをうたった短歌を紹介する。

 

*  *  *

 

北斜面に残る六月の雪渓を踵にエッジかけつつ渡る

沢口芙美『サガルマータ』

 

作者は登山をしてきた歌人です。挙げた作品は、青森県の八甲田山に登ったときの歌です。八甲田山は夏になっても斜面にはまだ雪が残っているのです。「北斜面に残る六月の雪渓(せっけい)」は、山の景色を簡潔に描写していて、読者は白い積雪が残る山の斜面を思い描くことができます。雪面を渡ってゆく時は、足を取られないように細心の注意を払ってゆくのでしょう。足の角度を変えて踵(かかと)に力を入れてゆくことが「エッジかけつつ」と表現され、動きや感触を伝えます。

 

高山病の瞳に余計(よけい)赤きとう冷たき石を踏みて歩めり

花山周子『屋上の人屋上の鳥』

 

九合半(きゅうごうはん)にカレーを食えばうまいかと聞く人のいて闇は来たりぬ

 

沢口さんより四十歳ほど年下の、若い作者の山登りの歌です。初めて富士山に登った体験をうたっています。「とう」は「という」を略した言い方。同行した人も自分も高度が上がるにつれて高山病という症状が現れ、目に見えるものの色が変化をしているというのです。赤く見える石、冷たい石という二つの感覚的な捉え方によって、山の特異な面を映し出しています。二首目は九合半という位置にある山小屋で食事をとっている場面。「合」は頂上までの険阻(けんそ)の度を大まかに示す単位で十合目まであります。カレーライスを話題にした登山者同士の会話に臨場感があります。「聞く人のいて闇は来たりぬ」という運び方が上手だと思います。山小屋の外に広がる闇が迫ってくるように感じる、冴えた感覚が伝わってきます。

 

■『NHK短歌』2014年8月号より

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