五月雨で勢いを増す最上川を詠んだ、芭蕉の名句


俳句に用いられる季語は、季節を愛でることばです。昔から多くの句が詠まれてきましたが、季節がめぐってくるたびに引用される名句があります。4月号から新連載としてスタートした「名句徹底解剖ドリル」は、そんな古今の名句に込められた作者の心情や背景を、新進の俳人である髙柳克弘(たかやなぎ・かつひろ)さんがドリル形式で解き明かし、新たな魅力を発見していきます。通常、一つの句についての解説は数行であることがほとんどですが、本連載では見開き2ページを使って徹底的に解剖し、名句とその作者に深く迫ります。
5月号では五月雨(さみだれ)と最上川を題材とした、芭蕉の名句を取り上げています。
五月雨を集めて早し最上川
芭蕉
Q 季語の「五月雨」はどのような雨を指すでしょう?
・晴れの多い5月にたまに降る雨
・えんえんと降り続く梅雨(つゆ)時の雨
・夏の暑さを忘れさせる清々しい雨
正解は「えんえんと降り続く梅雨時の雨」です。旧暦の5月は、新暦では梅雨の時期に当たります。芭蕉の一門では、五月雨は「晴れ間のないように詠むもの」(『三冊子(さんぞうし)』)と考えられていました。
この問題の他に、芭蕉がこの句を詠んだ時の最初の構想や、ほどこされた「調べ」の工夫など、全5問が出題されています。ドリルに挑戦し、丁寧な解説を読むことで、句の新たな魅力が見えてくることでしょう。最後にはまとめで復習します。
この句は『おくのほそ道』の旅で最上川を下った時の、舟に乗った実感を詠った句です。五月雨の膨大な水量を一つに集めたかのような最上川の勢いと水量を感じさせます。最上川の持つ伝統的な恋の情緒を潔く切り捨て、恋の香りをまったくさせない、豪快な最上川の姿を描き出した点に、名句たる理由があります。
■『NHK俳句』2014年5月号より