教養

科学でどこまでわかるのか。“超常現象”、NHKスペシャル取材班の挑戦(下)


2014.05.05

3月22日に放送され注目を集めたNHKスペシャル「超常現象 科学者たちの挑戦」。番組の制作統括を務めた大里智之さんと、作家の恩田陸さんによる好評の特別対談の後編をお伝えいたします。今回は古代文明の謎についてから話が始まります。

 

謎多き、古代文明

――「超常現象」の続編はあるのでしょうか。
大里 いまはちょっと分からないですね。でも、オーパーツ※とかは興味ありますね。

※オーパーツ…発見された場所や時代とはまったくそぐわないと考えられる、遺跡などからの出土品。

恩田 私もまだ謎が解明されていない、古代の文明が気になるかな。マヤ文明や、インカ帝国のカミソリも通さないほど精緻に作られた遺跡とか。
大里 もともと恩田さんとは、私がNHKスペシャル「失われた文明 インカ・マヤ」を作ったときに知り合ったんですよね。番組制作がスタートしたあと、知人から、恩田さんがマヤについての小説を書いていると聞いたんです。それが、『上と外』という小説でした。なんとも言えない、中南米の雰囲気を見事に表現なさっていました。それで、NHKスペシャルの書籍を一緒に作ろうということになり、声をかけたんです。現地取材で、メキシコ・グァテマラ・ペルーの3か国を一緒に取材しました。行く先々でコーディネーターさんについてもらって。私もインカ・マヤ文明は、今でも不思議です。
恩田 古代文明は本当に今でも解明されていない謎も多いですよね。エジプトのピラミッドもどうやって作ったのか分からないわけじゃないですか。
大里 いわゆる「世界7不思議」って、ギザの大ピラミッド以外、残されていないんですよね。バビロンの空中庭園なんて、現時点で存在しないから、嘘だと思っている人も多いでしょう? ピラミッドも、もし今存在しなくて、お話としてしか伝えられていなかったら、みんなきっと嘘だと考えると思いますよ。古代の人の空想だと思うはず。でも実際にあるからなあ。
恩田 建造物で言うと、出雲大社の神殿も不思議ですよね。昔は、全然違う方向性の考え方があったんだろうなと思うんですよ。神社って鳥居の形もすごく不思議じゃないですか。機能としては、門なんだろうけど、なぜあんな形なのか。 文明って連続していないように思うんですよね。断続しているし、全然違う文明があってもおかしくないんじゃないかとは思います。奈良や京都の神社仏閣を訪ねても、「なんだこの変なものは! この造形はどういう発想で作られたのか、さっぱり分からない!」と感じるものも多いです。人類だってまっすぐ進化してきたわけじゃないと思いますよ。
大里 エジプトの文字とかね。あの複雑な文法体系がいきなり歴史上に出現しているんですよね。あれも不思議です。古代文明が人々の関心を惹きつけてやまないのは、謎を明らかにしたいっていう探究心をくすぐるからですよね。

 

――なぜ、恩田作品には、「超常現象」が登場するのか?!

恩田 信じてないから書けるんです。私の知り合いの作家さんでホラーを書くのが上手な人は、たいてい、「超常現象」的なものに懐疑的な人が多いですね。そういう作家さんは、「あるかもしれませんね」と言うことはあっても、「私、信じています」とは決して言わない。
大里 さっき、恩田さんは「あるんじゃないかと思う」と話していましたね?
恩田 はい。文字どおりなんですけど、「あるんじゃないか」と思うけれども、「信じて」はいない。「あるんです」ともまた違う。ちなみに、「あるんです」「信じているんです」という人が、そういうテーマの小説を書くと、すごく嘘臭くなる(笑)。「信じて」いないのは単純で、存在が証明されていないからです。でも、頭ごなしに「嘘だ」「インチキだ」と言うのも変だと思うんですよね。それくらいのスタンスがいちばん正しいんじゃないかな。数百年後に解明されるとしても。だから、人間のことについても結局はまだ何も分かっていないということですよね。
大里 そうですね。まだまだ分からない部分は多いですよね。
恩田 科学による研究はあってしかるべきだし、その過程で何か新しいものが生まれるかもしれないし。科学の発展につながって、人間についての理解も進むのではと思いますね。 個人的には、科学と宗教の相似点も感じています。なぜかというと、学説が短いスパンで頻繁に変わるから。しかも、最近の量子力学や物理学にいたっては、着想が私たちの常識とはかけ離れていて、「これって本当に科学なの?」と思うこともしばしばです。
「はー?!」と思うことも多いんですけど、それはやはり「科学」として認知されているわけです。「科学」というものはすごく揺れているのだと思います。「みんなが聞いて、納得できる」というのが、「科学」の十分条件の一つだと思うんですが、私個人としては、全部が全部納得できるものではないんです。いかに計算上はそうなると言われても、信じられない。どこか宗教に似ていると直感的に考えているのですが。「科学教」かな(笑)。私個人としては、「みんなが聞いて納得する」というのがポイントです。1000年後、謎が解明されるときには、その説明を聞く人々の意識も変わっているだろうしね。

 

「超常現象を研究する」ということ

大里 科学者の中には、自分が体験してしまったという理由で研究を始めてしまった人がいます。今回の本にも出ていますが、臨死体験を経験してしまったエベン・アレザンダー博士とか。
恩田 本がベストセラーになっていますよね(『プルーフ・オブ・ヘブン~脳神経外科医が見た死後の世界』)。
大里 科学者が体験してしまったら、自分をごまかすことができないから、その原因をつきつめようと、研究せざるを得ない例が多いみたいですね。あと、こういう研究をやっている科学者は、どうしてもよそからつつかれるんです。だから、研究もものすごく綿密にやっているということがありますね。条件設定を密にして、普通の学者以上に隙がないように実験や研究している印象があります。
だから、本流にならないのは分かっているけれど、ここまで隅に追いやられなくてもいいのになとは思います。かわいそうなくらい追いやられているのが現状ですね。
恩田 どうしても基礎研究など、お金と時間がかかる研究をやらないという風潮があるように思うんです。すぐに結果を出さなければいけない、と世間は世知辛いですよね。私の知り合いの科学者は、「こんなのいったい何の役に立つのかな?」というものを研究している人ばっかりですけどね(笑)。でも、それってすばらしいことだと思うんです。「オール・オア・ナッシング」の世界はつまらないので、研究にしても何にしても、いろいろなことが生き延びられるようにしないとね。
大里 超常現象の研究の難しいところというか、誤解されやすいところというか、危ないところというか。それは、すぐに、超常現象が、「あるか」「ないか」という議論になりがちなところなんですよね。何度も言うように、超常現象があったとしても、今は説明できないだけの物理現象であって、決してオカルト的な現象ではないはずなんですよ。 だから、科学者が、もし超常現象が「ある」と言ったとしても、それは「未解明の物理現象がある」と言っているだけのはずなのに、「オカルトがある」と言っているように誤解されてしまいやすい。これは、科学者にとっても全く本意ではないし、変に利用される危険性がある。超常現象を研究している科学者たちは、この点を常に注意しておく必要があると思うんです。 科学者としては、「ある」か「ないか」より、もしあるとしたら、どうしてそんな現象が起こるのか、その合理的な原因の解明に興味があるわけですが、そこのところを飛び越えて、「ある」のか「ない」のかと、どうしても問われてしまいますからね。
恩田 結局、「信じているんですか?」「信じていないんですか?」という2つの選択肢、二元論に行き着いちゃうんですよね。
大里 そうなんですよ。でも本当は違うと思います。無条件に信じ始めたら、これは、本当に危険なことです。
恩田 結局、みんな不安なんだよね。
大里 今回、その危険性は番組や書籍では、最大限払拭したつもりなんですけどね。そのように見てもらえるとうれしいです。ただ、知り合いなんかには、「夢壊すな」とも言われましたけど(笑)。「いずれ、すべて科学で説明できる」って言われるとさみしいみたいなね。生きていく上のモチベーションとして、「死後の世界があったら……」と考える気持ちはわかる。でもそこは、冷酷に「ない」、と。もしかしたら、「超常現象」という言葉が悪いのかもしれない(笑)。キャッチーだから、タイトルには使っているけど、実は番組本編の中では、あまり「超常現象」という言葉を使わないようにしたんです。なるべく「不可思議な現象」と言い換えるようにしました。
恩田 あ、そうですよね。
大里 「超常現象」と言ってしまうと、言葉のイメージで、「オカルト的な世界が存在する」とどうしても聞こえてしまう。だから、「現代の科学で説明できない現象があるんですよね」と置き換えることが重要なんです。今回の番組と書籍は、かなり慎重に作ったつもりです。
恩田 一切煽りなし(笑)。
大里 そうです(笑)。
恩田 本を読んでいると、「お!」という事実が判明したりするんだけど、その後の、地の文では冷ます方に行くんですよ(笑)。「超常現象が存在しました!」というカタルシスを得るための本ではないから、しょうがないか。でもそれはきわめて正しい態度だと思いますけどね。

 

「超常現象」VS「科学」

大里 そういえば、恩田さんがおっしゃっている「あるかもしれない」というのは、どういう意味なんですか。「今の科学で解明できない事実」があるかもしれないのか、それとも、「人智の及ばない不思議な世界」があるかもしれないのか。
恩田 いやいずれは科学で説明がつくんだろうとはやはり思っていますよね。でも、「あったらいいな」かな(笑)。夢ですかね(笑)。きっとあるんだろうとは思う。でも私が生きているうちには、解明されないんだろうな。私には縁がないかもしれない。
さっきも言いましたけど、二元論は嫌いなんですよ。グレーゾーンは必ずある。グレーゾーンこそが人間らしいところなんじゃないか。結局は個人の解釈ですけどね。やわらかい心で生きていきましょう(笑)。
――複数の人間が見たものであれば、いずれは解明できるような気がしますが、一人の人間の固有の体験、固有の感覚に根ざす現象についてはなかなか解明は難しいような気もします。

 

恩田 それは私たちが人間である以上、無理ですよね。私たちは自分の外には出られない。本当の客観性にはたどりつけないと思うんですけど。現代科学が、今のところの客観性を担保しているとは思いますが、本当の客観性にたどりつくのは無理な気がします。
大里 私はたぶん、いずれ脳科学で相当説明できるようになると思っています。脳科学で説明つかないことが、ほかの科学の発展で説明できるようになるのではないでしょうか。しかし、そのときには、また我々が想像もしていないような謎が出現しているかもしれない。常に謎は存在しているんじゃないかと。
恩田 もしかしたら、未来はもっとオカルト的な世界になっているかもしれない(笑)。それこそ、霊の存在も実証されちゃって、今から見ると非科学的な世界になっているかも。
大里 今の我々には、想像もつかないような発見や理論の構築が成されていると思いますよ。例えば、古代の人が感知式の自動ドアを見たら、「超常現象」としか思えないはずです。「赤外線」という概念すらなかったわけだから。それと同じように、未来では、新たな理論ができてきて、いわゆる「生まれ変わり」についても説明がついているかもしれないし、そうでないかもしれない。
恩田 大里さん、『超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか』という本は読みました?
大里 読みました、読みました。
恩田 認知科学の話になっていくんですよね。「超常現象」をいかに理解するかということは、結局、「どのように世界を認識しているか」「どのように世界が見えるか」という命題につながっていく。そこから考えていけば、「超常現象」を生物学や医学の視点から分析してもなんら違和感がない。未知の領域という面では、「超常現象」も、他の研究テーマと同じだから。物理でも生物学でも「未知なるテーマに挑戦する」というのは同じですよ。単なる、「未知の現象」として捉えれば、研究するのは普通のこと。
大里 解明できない謎に挑戦してきたことが科学の歴史だと思うんです。「超常現象」も同じだと思います。「そんなのありえない」と蓋をしてしまったら、それ以上進まない。みずから、進歩の機会を奪っているようなものですよね。不可思議な謎に挑戦することで、生み出される成果があると思うのです。事実、科学者たちが「超常現象」に対峙することで、今の科学じゃ説明できない「事実」があるらしいという片鱗が浮かび上がってきています。いろいろな仮説や発見も生まれています。つまり、今の科学では説明できない「事実」があるということは、それを説明する新たな理論が発生する素地が、そこにあるということです。その結果、ますます科学は発展していくのではないでしょうか。 謎が難解であればあるほど、そこに挑む価値があり、挑む科学者たちがいる。解明できるかできないかは実は二の次なんです。それらの研究はもしかしたら無駄な努力に終わるかもしれないし……。でも、つぶしてしまってはいけない。科学には、まだいろいろな可能性がありえるということを提示したかったんです。
恩田 うまくまとめていただきました(笑)。
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(この対談は2014年3月22日、NHK出版WEBマガジンのために行われたものです)

前編は5月4日(日)に掲載しました。

 

大里智之(おおさと・ともゆき)
1986年NHK入局。NHKスペシャル「四大文明」「ローマ帝国」「失われた文明 インカ・マヤ」「エジプト発掘」「知られざる大英博物館」などの大型シリーズを制作。現在、NHK名古屋放送局制作部長。

恩田陸(おんだ・りく)
1992年、日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となった『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞を、06年『ユージニア』で日本推理作家協会賞を、07年『中庭の出来事』で山本周五郎賞をそれぞれ受賞した。ホラー、SF、ミステリーなど、さまざまなタイプの小説で才能を発揮している。

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