教養

奈良や京都の寺院で入場料を払う理由


2014.04.13

奈良や京都などの古都に建つ寺院を参拝するとき、入場料を払う場合があります。アメリカの観光客はこれを不思議に思い、東京藝術大学大学院教授(文化財保存学)の籔内佐斗司(やぶうち・さとし)さんに質問しました。その回答とは?

 

*  *  *

 

お寺の維持管理のためです。

 

確かに、海外でキリスト教の教会へ行って、拝観料を徴収されることはまれです。その代わりドネーション(募金)の箱はよく見かけますね。

 

カトリック系の教会は、バチカンなどの大本山が末端の教会を差配するシステムの上に成り立っていて、神父さんは給与をもらって派遣されていますから、自分の生活費や教会の運営費を稼ぐ必要はありません。これは、赤十字社の仕組みと似ていますね。またアメリカのプロテスタント教会の多くは、地域社会が教会を建設し維持していますので、参拝者からお金を徴収するシステムはありません。

 

日本の伝統的仏教寺院は、千数百年の歴史を持っており、その間に経済基盤が大きく変化しています。飛鳥時代、蘇我氏など有力豪族の私的寺院は、豪族の丸抱え。天平時代の国家仏教の時代は、朝廷の丸抱え。平安時代から室町時代は、多くの荘園が寄進されたために、有力寺院は自前の広大な所領がもたらす富で潤いました。戦国時代は、厳しい時代だったと思いますが、それでも所領を安堵された寺院の経済基盤は安泰でした。

 

しかし、桃山時代に行われた豊臣秀吉の検地政策で、大寺院の所領の大半が召し上げられて知行制(ちぎょうせい)(石高制・交付金制度) となり、それが江戸時代まで行われました。江戸時代は、「寺請け制度」と「檀家制度」のもとに、日本の隅々まで寺院がつくられ、地域社会の中核としての役目を担っていました。また力のある大寺院は、出開帳や興行などの収益事業を行って、勧進を募る時代でした。それから、遍路や巡礼が盛んになると、宿坊などから収入を得る場合も多かったと思います。

 

明治以降は、本山、末寺の関係も希薄となり、末端の寺院の住職は、葬儀・法要の収入のほかに農業をし、教職などで現金収入を得ていました。

 

しかし戦後の農地改革や宗教法人法の制定など、社会環境が激変し、本山が維持しきれなくなった中小寺院の多くは単立の宗教法人として独立し、葬儀に関わる謝礼や戒名料、永代供養料などが現金収入となりました。また、著名な文化財を所蔵する寺院は、観光寺院として拝観料を徴収し、維持管理の経費や生活費を賄うようになりました。

 

現在、拝観料、永代供養料、戒名料など、寺院の生命線に批判が集まることも多いのですが、日本の仏教寺院の歴史の帰結であるといえます。宗教法人法などで、経理面での縛りとともに、ほかの法人組織に比べて税制面で大いに優遇されていることも事実ですから、新しい時代にそくした宗教者像と宗教施設のあり方を仏教界自らが打ち出さなければならないと思います。

 

■『NHK趣味Do楽 籔内佐斗司流 ほとけの履歴書 仏像のなぞを解きほぐす』より

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