教養

スパイを重要視した『孫子』


2014.03.23

世界最古の『孫子』の竹簡。1972年の発見時に農民が手荒く扱ったため、ばらばらになった。現在は薬液を満たした試験管に保存され、公開されていない。写真提供:著者

孫武(そんぶ)は、「戦争とはそもそも何なのだろうか」「人間とは何なのだろうか」ということについて、哲学的な思索を深めた思想家である。それが、『孫子』に結実したと言われている。大阪大学大学院教授の湯浅邦弘(ゆあさ・くにひろ)氏に、『孫子』の構成と特長を聞いた。

 

*  *  *

 

『孫子』は全13篇からなっています。当初は80篇以上あったとも言われていますが、後世の人による編集も入ったと思われ、現在残っているのは13篇です。

 

最初に置かれているのが「計(けい)篇」。全体の序文であり、戦争に対する基本的な考えや、戦いを始める前の準備の大切さが説かれています。これに続き、「作戦篇」「謀攻(ぼうこう)篇」「形(けい)篇」「勢(せい)篇」「虚実篇」「軍争篇」「九変(きゅうへん)篇」「行軍篇」「地形篇」「九地(きゅうち)篇」「火攻(かこう)篇」があり、最後に、戦争におけるスパイの重要性を説いた「用間(ようかん)篇」が置かれています。

 

13篇の構成ですが、順番についてはいろいろな説が唱えられており、その順番に意味があるのか、ないのか、実のところよく分かってはいません。ただ、およそ戦争というものが行われる手順のとおり、まず作戦を立て、軍事行動を開始し、戦場に赴き、戦闘が始まる、という時系列にほぼ並んでいるのではないかと思われます。そして最後にスパイに関する篇があるのが、非常に大きな特徴となっています。

 

今ではもちろん常識とされていますが、当時において、戦争における情報の大切さを説いたという点は画期的なことでした。それまでの戦争とは、事前の情報収集に腐心するというよりは、とにかく現場に行って奮闘してみようというものでした。ところが『孫子』は、情報こそが勝敗を決める、情報の収集と分析によって勝敗の八割がたは決まってしまうと喝破(かっぱ)したのです。

 

現在では、スパイどころか軍事衛星まで使って相手国の情報を収集するのは当然のこととされています。しかし当時において、戦争と情報を結びつけたことは、極めて新しい考えだったのです。

 

■『NHK100分de名著』2014年3月号より

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