教養

人を愛するにはナルシシズムを克服することが必要


2014.02.26

エーリッヒ・フロムは著書『愛するということ』の中で、「愛されるのではなく、愛することが大切」「もらうよりも、与えよ」といったメッセージを何度も繰り返している。この「愛を与えること」には見返りやナルシシズムが含まれていてはならないが、具体的に「愛を与える=愛する」とはどういう行為を指すのだろうか。法政大学教授の鈴木 晶(すずき・しょう)氏に解説していただいた。

 

*  *  *

 

フロムは、愛を与えることは自分の生命を与えることだと述べています。ここで言っている生命とは「命」のことではなく、「自分のなかに息づいているもの」のことです。相手に対して、「自分の喜び、興味、理解、知識、ユーモア、悲しみなど、自分のなかに息づいているもののあらゆる表現を与える」ことが愛だとフロムは言うのです。そして、「与えることによって、かならず他人のなかに何かが生まれ、その生まれたものは自分にはね返ってくる。ほんとうの意味で与えれば、かならず何かを受け取ることになるのだ。(……)与えるという行為のなかで何かが生まれ、与えた者も与えられた者も、たがいのために生まれた生命に感謝するのだ」と続けます。

 

愛はもらうものでなく、与えるものだと考える理由については、こんなふうに述べています。

 

愛とは愛を生む力であり、愛せないということは愛を生むことができないということである。

 

これは、「愛されることばかり要求して自分から愛そうとしない人は、本当の愛を体験することはできない」という意味ととらえていいでしょう。とはいえ、現代人の多くはどうしても、愛することよりも愛されることを望みがちです。そうならないためには、何を改めることからスタートすべきなのでしょうか。

 

「与える」ことができる人間になるためには、まずは「自分が一番大切」というナルシシズムを克服することが必要になってくると、フロムは言います。そう聞くと「私はそれほど自分のことを中心に考えるタイプではないし、ナルシシズムなど最初からもっていない」と反論する人もいるかもしれませんが、この世にナルシシズムをもたない人など存在しません。たとえば「あなたにとって理想の恋愛相手は?」と聞かれたら、なんと答えるでしょうか。

 

「一緒にいてリラックスできる人がいい。心が安らぐ人がいい」、あるいは「ぐいぐい私を引っ張っていってくれる人がいい」といった答えではないでしょうか。一見、あたりまえの回答のように聞こえますが、この時、多くの人は「自分の欲求を叶えてくれる相手」をイメージしているはずです。自分のために奉仕してくれる人、自分にとって居心地のいい人、つまりは「自分に都合のいい相手」を無意識のうちに求めてしまっているのです。これもひとつのナルシシズムの表れです。

 

このような考え方だけで相手を選ぶと、恋愛は長続きしません。やがてはもっと別のものを求めるようになり、それが満たされないと他の相手を探すようになってしまう。自分を一番大切と考えてしまうと、お互いに「何か与えてくれ!」とただ求め合うだけの関係になってしまい、永続的な人間関係は成立しないのです。最近のカップルがすぐに別れてしまうのも、彼らのナルシシズムの傾向が強くなっていることが理由のひとつと考えられます。

 

■『NHK100分de名著』2014年2月号より

このエントリーをはてなブックマークに追加

  • テキストビュー300×56

  • bnr-eigo2018_300x56

000064072332018_01_136 

NHK出版 歴史ドラマがさらに面白くなる本 幕末・維新~並列100年 日本史&世界史年表

2018年06月25日発売

定価 1080円 (本体1000円)

000000817442018_01_136

NHK「100分de名著」ブックス アドラー 人生の意味の心理学

2018年06月23日発売

定価 1080円 (本体1000円)

000062132362018_01_136

NHK CD BOOK Enjoy Simple English Readers Edogawa Rampo in English

2018年07月13日発売

定価 1512円 (本体1400円)