教養

『風姿花伝』が時代を超えて読み継がれている理由とは


2014.01.17

能は今からおよそ600年前の室町時代に、世阿弥(ぜあみ)によって大成されたと言われている。この世阿弥が書き遺した能楽論の一つ『風姿花伝(ふうしかでん)』は、能の世界に生きる人のみならず、あらゆる人々に時代を超えて読み継がれている。その理由を明治大学法学部教授の土屋惠一郎(つちや・けいいちろう)氏が解説する。

 

*  *  *

 

2013年は世阿弥生誕650年でした。世阿弥は、室町時代に能を大成した人物として知られていますが、具体的には何を行ったのでしょうか。世阿弥が、能や、それ以後の日本の芸能に与えたインパクトは計り知れないものがあります。まず、世阿弥は能の世界にさまざまなイノベーションを巻き起こし、演技、物語の形式、内容などあらゆる面において、今日私たちが「能」とするものの形を確立しました。また、世阿弥は生涯で多くの能の作品を書き、さらには、理想の能とは何か、その実践方法を含めて語った能楽論を書き遺しました。世界の演劇史を代表する劇作家と言えばシェイクスピアですが、彼が活躍する実に200年ほど前に、多くの数の作品と、シェイクスピアすら書かなかった演劇論まで書いていたのです。これは実に驚くべきことです。

 

世阿弥は、それまで芸能に関する理論というものが存在しなかった中、約20もの能楽論を書き遺しました。そのうちもっとも初期に書かれたのが『風姿花伝』です。

 

『風姿花伝』は、世阿弥が父から受け継いだ能の奥義を、子孫に伝えるために書いたものです。秘伝として代々伝えられ、明治時代に入ってはじめて多くの人の目に触れるものとなって、現代においては文庫版などで容易に手に入れて読むことができる古典となっています。

 

ここで、みなさんの中には一つの疑問が湧いてくるかもしれません。能の家に生きる者のために書かれた秘伝の書が、なぜ、能に関わる人以外にも、時代を超えて広く読み継がれる古典となっているのか。『風姿花伝』に対する私の一番大きな関心も、実はここにあります。

 

『風姿花伝』は、能役者にとってのみ役立つ演技論や、視野の狭い芸術論にとどまってはいません。世阿弥は、能を語る時に世界を一つのマーケットとしてとらえ、その中でどう振る舞い、どう勝って生き残るかを語っています。つまり、『風姿花伝』は、芸術という市場をどう勝ち抜いていくかを記した戦略論でもあるのです。

 

■『NHK100分de名著』2014年1月号より

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