教養

ドストエフスキーが仕掛けた根源的な問い


2014.01.07

名古屋外国語大学学長の亀山郁夫(かめやま・いくお)氏は、人生で3度、『罪と罰』を深く体験した。50代後半の体験では、作者ドストエフスキーの根源的な問いに震撼させられたという。

 

*  *  *

 

わたしはドストエフスキーの小説を、「物語層・自伝層・歴史層・象徴層」の4つのレベルで捉えています。大人の読者は、若い読者の物語への没入とはまたちがったレベルで、作者の人生の反映や、歴史的な意味や、神や運命という象徴的なテーマによる多様な読み方ができるのではないでしょうか。

 

50代後半になってからの、わたしの『罪と罰』体験は、まさに戦いでした。すなわち、翻訳という営みをとおして、過去の2度の経験とは根本的に意味の異なる戦いを繰り広げることになったのです(光文社古典新訳文庫、2008〜09年、全3巻)。

 

若いときに経験できた主人公とのシンクロはもはや起こりませんでした。しかし、その代わり、この小説が、いっさいのヒエラルキーを超え、みずからの命を賭けて生きる登場人物たちの、ポリフォニックな声の饗宴であることに気づき、別の感動を覚えました。と同時に、芸術的といえる巧みな構成に舌を巻くとともに、象徴的なレベルにおけるさまざまなテーマにも遭遇することができたのです。

 

そしてあらためて、作者ドストエフスキーの仕掛けた根源的な問いに震撼させられました。

 

「目的は手段を正当化するか」

 

すなわち、歴史的に正義とされる、「善なる観念」に基づくものであるなら、はたして殺人という手段は許されるのか……?

 

■  『NHK100分de名著』2013年12月号より

 

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