教養

短歌にうたわれた遊園地


2013.11.02

イラスト:中野和美

秋の行楽シーズン真っ盛り。家族や友人と遊園地に行くという方も多いのでは。短歌には「遊園地」という語そのものよりも、乗り物や遊園地の名称が使われたものが多いと話すのは、「未来」選者の佐伯裕子(さえき・ゆうこ)さんだ。

 

*  *  *

 

日本に初めて浅草花屋敷と呼ばれる遊園地ができたのは1853年、江戸時代末期のことでした。新しもの好きの洒脱な江戸人気質が伝わってくるようです。明治期になってからさまざまな遊具や動物が整えられ、大正、昭和と人気を呼びました。いったん取り壊された花屋敷は、戦後にふたたび開業されるのですが、時代の流れとともにその役割も変化してきました。東京ディズニーランドが人気を集める現在、遊園地はすっかり姿を変えてしまったのです。

 

短歌に登場する場所として、「遊園地」という語が使われる例はあまりありません。観覧車、メリーゴーランドなどの乗り物や、遊園地の名称が多く登場してきます。また、特色としては、「回る」という語がよく使われています。遊園地には、回る乗り物が多くあるからでしょう。

 

花屋敷その遊園の音ひびく遠きねむりの国のごとくに

石本隆一『海の砦』

 

花屋敷の賑わいが遠くひびいてくる場所が想像されます。遊園地そのものをうたっているのではなく、その音からくる郷愁が表されているのです。1978年に出版された歌集ですから、浅草花屋敷が賑やかだったころです。それでも、日本風の古風な「花屋敷」という名称が懐かしく、「遠きねむりの国」と巧みにひびきあって、やわらかな優しさを引き出しています。初句の名称が異なると、一首全体の感じが違ってきます。短歌にとって、地名や名称は重要な役割をもっています。

 

観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ)

栗木京子『水惑星』

 

夜は夜のあかりにまわるティーカップティーカップまわれまわるさびしさ

永井陽子『葦牙』

 

一首目は恋の歌になっています。ゆっくりと天空に向かって回る大観覧車は「想ひ出」の比喩(ひゆ)のようです。繰り返し思い出される「想ひ出」の苦しさ。「君」にとってはたった一日に過ぎない日が、「我」にとっては一生繰り返される恋しい日となってしまう……。読むものには、観覧車で遊ぶ一日の二人が、光のように浮かび上がってくるでしょう。

二首目、歌全体がくるくる回るリフレインになっています。夜の遊園地の幻のような華やぎ。その寂しさが迫ってきます。「夜は夜のあかりに」と簡潔に状況が示されていて、きらきらとめぐる灯のみがイメージされてきます。とりわけ夜の遊園地は、一夜の幻想のように儚(はかな)かったことでしょう。回る乗り物が多い遊園地は、リフレインが生きる場でもあります。

 

■『NHK短歌』2013年11月号より

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