料理

「シャポリシャポリと薄口しょうゆに漬けて」——小林カツ代さんが出会った「ヒカヒカエリンギごはん」


2014.08.04

写真)鈴木雅也

「私がこの世からいなくなっても、レシピは永遠に残る」。今年1月に76歳で亡くなられた小林カツ代さんの言葉です。 カツ代さんは子育てのときや忙しい共働きのときを経て、その経験を生かして、「簡単でおいしい」料理を数々考案してきました。同じ状況の主婦たちは、カツ代さんの料理にどんなに助けられたことか。「しんどかったら、無理しないの。しわが増えちゃうよ」といった、ユーモアあふれたおしゃべりにも、何度となく元気づけられたことか。

そんなカツ代さんの姿をもう一度見たいという声にお応えして、えりすぐりのカツ代さんらしい料理を集めた臨時増刊テキストをつくりました。カツ代さんが『きょうの料理』で連載していた人気エッセイも抄録。料理を通してカツ代さんをめぐる人々が、イキイキと描かれています。その中から心温まる「ヒカヒカエリンギごはん」の話をご紹介しましょう。

*  *  *

私の友人にはいろんな人がいますが、突出しているのは非営利団体NGOのスタッフU君やN君。優秀なスタッフで、経歴や学歴でその人を評価してはいけない見本のようなU君とN君。U君は元暴走族。二十三歳の若さで今や二歳のひびき君という可愛(かわい)い男の子の父。U君についての話もすごく面白いけど、今回はN君の話。彼は二十八歳。中学卒業後、十四歳で、たった一人で生きねばならない環境に放り出された人。「ほんとにお腹(なか)が空(す)きましたよ」という言葉にどれほどのつらさや苦しみや悲しみがあったかと察せられる。ほんとなら涙なしでは聞けない話を面白おかしく話すので笑い転げてしまう。いつか本にしてほしいほど波乱に満ちたもの。

年配の人でよく若い人とは話が合わないとか、まるで別世界に住んでいるようなことをいう人がいます。でも私はこのNGOの船に乗って講師をしたおかげで多くの若者に出会い、理解し合い、話はいつも深夜までどころか明け方近くまで及んだものです。みんなが共通して持っているものはそれまで生きてきた人生、現代の様々な社会問題、そして食べもの、いっぱい話すことがある。

「松茸(まつたけ)は高すぎますけど、エリンギごはんって知ってまっか?」。九州の佐賀で捨てられ、福岡、大阪間を転々とした中で、ばっちりと大阪弁が身についた二十八歳、ときどきオッサン調になります。「しめじでもええし、オーブントースターで焼きますねん。しつこうしつこう焼きますねんよ、ヒカヒカになるまで。それをシャポリシャポリと薄口しょうゆに漬けて、炊きたてごはんに混ぜるだけですねん」

食べものは、毎日食べないと生きていけないしんどさと、食べるという誰にも共通する幸せとの両面を持ってます。彼が料理を語るときの顔を見ていると、ほんとに私まで嬉(うれ)しくなってきます。ヒカヒカエリンギごはん、つくりました。すだちを絞ってみました。どうしてこんなにおいしいかと思うほど素朴でおいしい。「きのことりおじさんに山の中で食べさしてもらいましてん。炭火でヒカヒカになるまで焼いてましてん」。どんなにつらいことが続いても、良い人に出会うだけで、人は幸福になれる。きのことりおじさんにも私は感謝。ぜひ、つくってみてください。食べないと分からないおいしさですから! 必ずヒカヒカになるまで焼くこと。歯ざわりが違います。

※「ヒカヒカエリンギごはん」のつくり方は『きょうの料理8月号臨時増刊 もう一度見たい! 小林カツ代のベストおかず』に掲載しています。

■『NHKきょうの料理8月号臨時増刊 もう一度見たい! 小林カツ代のベストおかず』[雑誌版・電子版あり]より

このエントリーをはてなブックマークに追加

  • bnr-eigo2019

  • テキストビュー300×56

  • bnr-eigo2019

もう一度見たい! 小林カツ代のベストおかず

2014年7月14日 発売

永久保存版 究極のカツ代流レシピ70品

000000333092020_01_136

NHKまる得マガジンプチ もっともっと ふだんづかい パクチーまるごとレシピ

2020年06月20日発売

定価 1045円 (本体950円)

000000333082020_01_136

NHKまる得マガジンプチ お手軽なのにきちんとおいしい 手づくり漬物

2020年06月20日発売

定価 1045円 (本体950円)